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 経済って、好きではないけれど、生きものなので面白いと思って読んでいる。出版直後より古本屋に出回る数年後に読んだ方が、推移した実際の経済過程と比べて分かりやすいことがしばしばある。この本は2003年5月の出版である。
 経済関係の著者として、増田さんの記述はポイントが明確で歯切れがよくって分かりやすいので楽しめる。これは、増田さんがアメリカ在住の著者であることに深い関係があるはずだ。


【供給過剰時代】
 デフレは日本だけの問題ではない。中国のみならず、東欧諸国、バルト三国、ブラジル、インドなどが 「世界の工場」 へ向けて出番を待っている。これはかつて世界が経験したことのない「供給過剰時代」が到来したことにほかならない。(p.122)

 


【マネーサプライか需要か】
 「供給過剰時代」には、物価を押し上げる政策は、例え理論的には考えられても、現実問題として実現不可能である。終戦直後のデフレの時も、結局これを解消したのは朝鮮戦争による特需であった。デフレを解消しようとするなら、マネーサプライを増やす政策ではなく、需要を増やす政策でなければならないのである。 (p.132)



【ITと土木の乗数比較】
 国土単位面積当たりのコンクリート容積率で日本はダントツの世界一であるというデータを示して、土木事業の行き過ぎを牽制していた論述を読んだことがあるけれど、増田さんは正反対の意見である。
 公園面積、下水道普及率、道路舗装率などの先進国比較で、日本は社会資本整備の遅れがある、とデータを示している。

 そして、

 IT向け投資は、土木関係への投資と比べて、乗数効果が著しく低い。(p.164)

  故に、不良債権を抱える現在の土木事業では、やや乗数効果は伸び悩むものの、将来的には本来の乗数効果が期待できると。


【アメリカの格付け会社:ムーディーズの大嘘】
 「ムーディーズの日本国債の格付けが下がった」 とか 「日本は国民一人当たり524万円の借金をしている」と書き立てて不安を煽るマスコミがあるが、大嘘である。
 その訳は、日本国債の対外債務(国債を保有する外国人比率)は僅かに4%である。日本の国債の96%は、日本の国民によって賄われているのである。グローバル経済的にいえば、「夫婦間の賃借」に過ぎない。これに対し、2001年に債務不履行を宣言したアルゼンチンの対外債務は60%であった。アメリカが34%、ドイツが37%である。アメリカの格付け会社がいかにいい加減かがわかろうというものだ。 (p.173)

 日本という国を他の財政赤字国と同列に考えては、判断を誤ってしまう。日本は世界最大の債権国である。日本は諸外国に迷惑をかけることなく、自力で財政赤字を解消することができる、世界でも唯一の国である。
 さらに、国家と言うのは企業と違い、絶対に黒字でなければならないということはない。日本という国の存在意義は、日本国民の生活を保障することである。それ以上でもそれ以下でもない。 (p.180)


【「供給過剰時代」は「マネー経済」の時代である】
 「需要過剰時代」は、利益を設備投資に向ければさらに利益を見込むことができ、株価の上昇も期待できた。しかし、「供給過剰時代」は利益と設備投資が必ずしも結びつかない。となれば、利益が向かう先は「マネー経済」の領域である。レーガン大統領が脱工業化を目指したことによって、「マネー経済」が世界経済の主役に押し上げられることになったのである。(p.200)

 世界の工場の25%は、日本の技術力によって工場設備が作られている。設備投資が継続されないとしても、これらの工場の維持に関わって、日本の技術力が必要とされ続けることは間違いない。しかし、このような技術を保有する日本企業がハゲタカを筆頭とするマネー経済に晒されないよう、守備固めをなしつつ世界に貢献する智恵が、日本にはある筈である。

 この上巻は、全体的な経済概況、アメリカに関する詳細な解読は下巻に記述されている。

 

『目からウロコのマーケットの読み方(下)』

 

<了>