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 中野有(なかの・たもつ)さんは、 『例外的日本人』 竹村健一 (太陽企画出版) の中で取り上げられていた10人の中の一人である。 『例外的日本人』 10人の中では、かなりエリート的な経路を辿ってきた人だったので、その読書記録の中では中野さんのことを取り上げなかった。しかし、その人生経路を本人の詳細な記述で読んでみると、興味深い点がいくつもあった。

 

 

【国際フリーターだからできること】
 多角的、重層的な視点から展望するカンを身につけることができた。同じ組織にいれば発想は浮かばなかったし、机上の学問だけでは世の中を動かすビジョンは生まれない。いろいろなところで優れたたくさんの人々とめぐり会うことによって、乗数効果的な大きな発想が生み出されると実感している。
 それができたのも私が国際フリーターだったからだ。 (p.5)

 

 

【誰も行かないところを目指す】
 人生は偶然に満ちている。だが、やむにやまれぬ好奇心と情熱によって、それは必然になる。日本人でこんな地の果て(南アフリカのダーバン)で勉強したいという変わり者に対し、暖かく手をさしのべてくれたのだ。
 これから留学しようとする人には、奨学金を得るコツは、競争がないところを選ぶに限る、そうアドバイスしておく。 (p.76)
 1984年当時の南アフリカは、アパルトヘイト(人種差別政策)があったため、日本人のいない地を目指した著者の選択が、国際的に貴重な体験と評価されて、後々の活躍に繋がっていったようだ。

 

 

【海外に出かけることの意味】
 大学に数日通うと、東洋から来たユニークな人物として珍しがられた。ここぞとばかり、積極的に日本紹介をかって出た。
 海外に出かける意味の一つがここにある。一人の人間として、自分の国や文化を伝えるのは楽しい。説明の方法に正解、不正解はない。けれども、どう伝えようかと考えて、相手の興味と反応をはかりながら喋ることは非常に楽しいことである。 (p.78-79)

 英語上達のコツは、日本人がいないところで、聴衆をひきつけられるテーマを、心をこめて話すことだと、このとき痛切に感じた。 (p.91)
 大前研一さんも学生の頃、海外から日本に来る外国人のガイドをすることで、英語を磨いていたと書いていた。
            【名添乗員】

 

 

【ないことの良さ】
 (リベリアでの)2年間というもの、風呂とは無縁の生活である。そのかわり、日本にはないものがアフリカにあった。電気がないおかげで、夜空に輝く星のきらめきは、どんなダイアモンドの輝きもかなわないほど神秘的な美しさだし、テレビのない生活は、考える時間を提供してくれた。 (p.101)
 日本にいてはダイアモンドのような星の輝きは手に入らない。しかし、テレビのない生活を手に入れることは意のままである。視聴率優先で作成されている民放のテレビ番組を見ている時間が多くなると、人生が実に空虚なものになるのをつくづく感じている。
 
 
【地球益のために共に汗を流す】
 トンガに輸出加工の経済特区を作ることから手がけて、これは大成功した。産業を興して雇用も産みだし、そして相当な利益もあがった。坂本竜馬ばりにビジネスで利益をあげつつ社会に貢献する醍醐味が味わえたように思えた。
 高台に二人で上がり、はるかかなたに広がる南太平洋の海原を見つめながら、同じ国連に勤務するアメリカ人と日本人が、半世紀前の戦争に瞑目し瞑想した。
 この瞬間、国連という組織に勤務してよかったと思った。世界190カ国の人々が、世界平和という同じ目的に向かって汗をかく充実感は、机上の学問では得られないものである。
 地球益・国連益のために働くことが、まわりまわって日本の国益にもつながってくる。そう確信する経験だった。 (p.109)

 

 

【地球益を実践していた日本人の一例:久保田豊】
 (日本工営の)創業者である故久保田豊氏は、戦前・戦後の国際的なインフラ整備を構想から実施まで実践した人物だ。1941年に、中国と北朝鮮の国境を流れる鴨緑江に造った水豊ダムは、当時、世界最大の70万キロワットの水力発電所である。
 60年を経た現在も、中国と北朝鮮にそれぞれ35万キロワットの電力を供給し続けている。
 久保田氏は「開発協力は人類の義務である」という言葉を残し。96歳の人生をまっとうした。なんといっても、その大きな功績は、経済協力の視点から平和に貢献できることを実証した。 (p.135-136)
 このような素晴らしい国際貢献の実例が、日本国内では殆ど伝えられていない。この事実を知って、日本の偉大なる先人を顕彰し、そして、その恩恵を受けながら、それを伝えたがらない勢力がいかなるものであるのかを知っておくべきであろう。

 

 

【独裁者の問題】
 再確認しておきたいことは、2200万人の北朝鮮人民には罪はなく、一部の北朝鮮を掌握するテクノクラートに問題があるという点だ。人民とテクノクラートの共通の利益の合致点を探ること、これこそが抜本的な対策であり、民主化への早道なのである。
 先に述べたように、アパルトヘイトが撤廃されたのは、経済制裁や武力行使によってではない。レーガン大統領が推進する南アフリカへの投資促進策だった。 (p.179)

 

 

【日本人の現実形成力】
 日本の大学やシンクタンクに比べると「研究の成果を実行したい!」「構想を実現するんだ!」というエネルギーが、こちら(アメリカ)でははるかに高く熱い。
 本来、シンポジウムや講演での魅力は、ひらめいたことをすぐに伝えるライブ性にある。これを日本人は忘れているように思う。 (p.147)
 アメリカでは、講演やシンポジウムの後半半分は質疑応答の時間だという。
 聞いているだけでほとんど質問しない日本人の慎ましさは、確かに現実形成力の弱さという弱点になっている。一般の日本人は、「自ら計らわず」 とか 「自然の流れに任せる」 といった考え方をしているけれど、明治維新のような時代の変革期に現れた日本人達は、構想を実現するために凄まじいほどの行動力を示している。
 世界維新をなすべき時代には、どれほど優秀であろうと、日本国内だけで生きているだけの人物にはそれほど大きな期待はできないだろう。著者のように世界を実体験している人々で、日本文化に誇りを持ち、なおかつ地球益という視点で考えることのできる人々のみが宇宙の意思に叶った人材といえるのであろう。

 

 

【宇宙の目的にかなったエネルギー】
 精密で論理的なのは文献からの構想だろう。だが、斬新な発想は生まれにくい。体験によって磨いた感性から描いた構想は、どこかにきらめくような魅力を持っている可能性がある。
 ・・(中略)・・
 少し神秘的な表現だが、豊かな感性の源泉は宇宙の目的にかなったエネルギーであると思う。「国際フリーター」をやっていると、こうしたことを実感させられる体験をすることが必ずある。 (p.207-208)
 日本企業からの海外派遣、海外留学、外務省職員としての海外派遣、国連職員としての海外勤務。こういったステップアップを経験してきた著者は、自分の運命の中に宇宙の目的にかなったエネルギーを感じていたのだろう。
 地球益を念頭に、天の理に沿って生きている人々は、誰であれ上昇気流に乗れる。
 そして、国益のみを追求する国家と、私益のみを追求する個人は確実に衰退するのである。
 
 
<了>