「壮絶プレッシャー」の先にあったもの。VS最強オリンピア、アウェー戦。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

「壮絶プレッシャー」の先にあったもの。VS最強オリンピア、アウェー戦。


※ホンジュラスの首都テグシガルパの街並み。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia!2013.2.24①


 全く、予想だにしてなかった展開…の続きです。


 こうして、本来、遠征には帯同しないはずだった僕が、会長の「鶴の一声」で、突然、まさかの帯同をする事になり、今回の対戦相手の「最強」オリンピアの本拠地でありホンジュラスの首都であるテグシガルパに上陸しました。

 それにしても、前日のバス移動もなかなか凄かった…。午前8時からトレーニングした後、昼12時に出発して夕方20時には到着する予定が、案の定というか出発時刻はずれ込み、首都の宿泊先のホテルに着いたのは夜23時過ぎ…。実に約1時間のバス移動。しかも、夜2時に着いてから結構ゴツイ食事(肉盛りだくさん)…。こんな夜遅くにこんなゴツイ食事をとって、その直後に寝るんだから、選手たちのがもたれないか心配になりました。翌日、試合ですよ…。そもそもホンジュラスでは、どんなに遠くても国内の試合の移動で「飛行機」は使用しません。理由は「お金」が無いから…。しかも「バス」と言っても、日本のようなキレイなバスではありません。ズタボロのバス…。アウェー戦は、移動だけで、それはもう大変なのです…。


※首都テグシガルパのホテルにて、トレーナーとホペイロ(用具係)と。ちなみに、こちらではホペイロとは言わず「ウティレロ」と言います。日本と違ってこちらのホペイロが大変なのが、「洗濯機」が無い事。選手のユニフォームや着る服全て「手洗い」です。しかも中2日、3日で続く怒涛の連戦…。彼(赤いシャツのホペイロ)の仕事の大変さは、察して余りあります。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia!2013.2.24②



 「前回ブログ 」に書いたように、本来、遠征に帯同しない予定だった僕が、会長の「独断」で遠征に帯同する事になった事により、「負ければ=来る予定じゃなかったYojiが来たせい」になり全ての責任をなすりつけられるため、壮絶なプレッシャーが僕にかかる事となりました。ただでさえ、前節のプラテンセ戦無敗を誇る得意のホームで敗北を喫し、絶対に負けられない状況…。シーズン途中からチームに合流した僕がチームにとって「プラスの存在」である事を証明するためにも、今回のオリンピア戦は何としてでも「結果」が必要でした。

 しかし「絶対に負けられない」「何としても結果が必要」な試合で、相手はホンジュラス国内で文句なしの最強チームであり、最も「負けない」のが難しい相手であり、最も「結果」を出すのが難しい相手である「オリンピア
昨季まで前人未到のリーグ3連覇、国内ダントツ最多優勝回数。今季も当然ながら優勝候補筆頭)。しかも、「アウェー戦」…。

 オリンピアがただ単にホンジュラス国内で強いだけのチームだと思ったら、大間違い。それを物語るのがオリンピアが世界に輩出している選手たち。現在、英プレミアリーグのウィガンで活躍中のDFマイノル・フィゲロア 、ストーク・シティでプレーするMFウィルソン・パラシオス (元ウィガン、トットナム)、201年まで3年間ウィガンでプレーしたMFヘンドリー・トーマス僅か年間(2007年~10年)の間に、実に3人ものプレミアリーガーを輩出。しかも全員レギュラーとして活躍(トーマスは2、3年目からなかなか試合に出れなくなり、パラシオスは現在、出番を失ってますが、フィゲロアは何年も不動のレギュラーで活躍中)。短期間にこれだけのプレミアリーガーを輩出するチームは、Jリーグにもありません。オリンピアは他にも、イタリア・セリエAで得点を量産したFWダビド・スアソ も輩出しています。


※昔のオリンピアの写真。後列の向かって左から2番目がヘンドリー・トーマス、前列の向かって一番右がウィルソン・パラシオスです。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -CLUB_OLIMPIA



 対する我々レアル・ソシエダは昨年、初めて2部から1部に昇格したばかりのチームで、選手の8割以上は2部でのプレー経験しかない…。しかも前期は「最下位」…。降格候補の筆頭であり、「最強オリンピア」とは何から何まで全てにおいて対照的なチームなのです。


 2009年にGKコーチの仕事を始めて から現在まで、試合前に「緊張する」なんて事はほとんどなかったのですが、この日ばかりは壮絶なプレッシャーがかかり、若干、緊張しました。それでも「自分にできるのはGKに最高の準備をして最高の状態で試合に送り込む事のみ。その自分にできる事を、最大限、全力でやるだけだ」…と気持ちを整理し、良い精神状態でスタジアム入りしました。

 首都テグシガルパのスタジアムエスタディオ・ナシオナル は、日本で言うところの「国立競技場」。8年前にCDレンカでプレー していた時は立つ事ができなかった、「憧れの場所」。GKアップでそのピッチを踏みしめた時ああ、俺はやっとこの舞台に立つ事ができたんだな。今、夢が叶ってるんだな。夢って、思い続けていれば叶うんだな」と、感動しました



 できうる最高のアップをして、GKを試合に送り出します。


 そして、ついに、「人生をかけた、絶対に負けられない戦い」の、キックオフ。


 立ち上がりからホームの最強オリンピアが圧力をかけてきますが、我々レアル・ソシエダも「雑草軍団」ながら組織的にハードワークする「全員サッカー」で対抗。

 ピンチが訪れ、レアル・ソシエダのGKがファインセーブ。その度に「ヨシッ!!」と拳を握り、「ふぅ~…」と安堵の深呼吸…。コーチは自分がプレーできない。GKを送り出したら、あとは信じて祈るしかない…。「頼む、頼む、頼む…」

 一瞬たりとも気が抜けない、緊迫の状況が続いていきます…。





 
 そして…。




 試合終了。




 結果は…




 0-0」の引き分け!!!!!

 
  


 敵地で最強オリンピアを「完封」!!クラブ創設以来初めてアウェーでオリンピアから勝ち点を奪う「歴史的な引き分けをおさめました!!



 もう、とにかく嬉しかったのなんの…ホッとしたのなんの…。これまで約5年間、GKコーチをやってきましたが、ここまでプレッシャーがかかり、ここまで感動した試合は、未だかつてなかった…。確かに、勝てなかったのは悔しかった。しかし、「最強オリンピア」を相手にアウェーで「無失点」は、「GKコーチ」としては最高の「結果」…。

 どうしても、どうしても必要だった「結果」を、最高の形で出す事ができました…。


 さらに…。


 この試合でファインセーブを連発してオリンピアを完封した我々レアル・ソシエダのGKが、翌日のホンジュラス唯一のスポーツ紙「ディエス」選定の「ベスト・イレブン」に選ばれる


※こちらがその、「ディエス」選定の「ベスト・イレブン」。一番上の写真が、レアル・ソシエダのGKサンドロ・カルカモ。レアル・ソシエダからは2人しか選ばれなかったのですが、その内の1人がGKだった事は、GKコーチとして本当に嬉しかったです。サンドロは昨年までの2年半は全く1部でプレーしておらず、ずっと2部でプレーしていました。1部では、もはや「終わったGK」と見られていた彼が、最強オリンピアを相手に最高のプレーをして無失点に抑えベスト・イレブンに選ばれる…。苦労人の彼の事を思うと、感動して涙が出そうになりました。そして今節の「ベスト・チーム」に輝いたのは、我々レアル・ソシエダ!とにかく、いろんな意味で、チームにとって歴史的な1日となりました。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia!2013.2.24③


 
※レアル・ソシエダのGKサンドロ・カルカモとオリンピア戦後のロッカールームにて無失点に抑えたら、写真を撮るようにしています。これからも試合後にたくさん写真が撮れるよう、全力を尽くしていきます!!

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia!2013.2.24④



※スポーツ紙「ディエス」の一面。壮絶な試合だった事を物語る写真です。ちなみに流血しているのは、我々レアル・ソシエダのMFフリオ・セサル・デ・レオン。実は彼は、レッジーナ時代の元日本代表・中村俊輔選手のチームメイト。イタリアで10年プレーしたホンジュラス最高のファンタジスタ」であり、雑草軍団の我がチームの中で唯一のビッグネームです。彼については、また日を改めて詳しく書きます

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia!2013.2.24⑥



※試合後にオリンピアのMFヘンドリー・コルドバと。彼は僕のCDレンカ時代のチームメイト。かつては2部でも試合に出れなかった選手が、その後に驚異的な成長を遂げて、最強オリンピアでプレーするようになり、代表にも選ばれました。昔から非常に謙虚で真面目な選手でした。かつてのチームメイトの飛躍はまるで自分の事のように嬉しいです。オリンピアにはもう1人、マラトン時代に共に汗を流し、先日のアメリカとのブラジルW杯最終予選で「まるでキャプテン翼のようなありえない超絶オーバーヘッドゴール 」を決めた、DFフアン・カルロス・ガルシアも居ます。残念ながら写真は撮れませんでしたが、試合の前と後でガッチリ握手と抱擁を交わしました。「かつて共に汗を流した仲間と、再び同じピッチの上で再会する」のは、僕の長年、思い続けてきた「」でした。その夢も、この日、叶いました

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Olimpia!2013.2.24⑦



 オリンピア戦の前には、会長の独断でチームに帯同する事になった僕に、壮絶なるプレッシャーがかかりました。

 しかし、その「壮絶プレッシャー」を乗り越えた先にあったのは、「最強オリンピアに対して歴史的な完封」「レアル・ソシエダのGKがベスト・イレブンに選ばれる」という、「最高の結果」でした。

 そして、その「最高の結果」がもたらしたのは、チームメイトからの僕に対する、「信頼」と「尊敬」でした。

 この試合後から、
明らかにチームメイトの僕に対する態度が変わりました。その態度からは、僕への「信頼」と「尊敬」が伝わってくるようになりました。中でも一番、態度が変わったのが、僕に今回の遠征で「帯同せずにトコアに残れ」と指示をした、チーム幹部の1人。彼は僕がチームに合流してから一環して冷たい態度で非協力的だったのですが、このオリンピア戦の正に直後(数分後)から、豹変。急に僕に優しくなり、今まででは考えられないくらい協力的になりました。

 ハイロ・リオス監督に呼ばれたとは言え、シーズン途中にいきなり見ず知らずの日本人がチームに合流…。僕の事を良く思わない人間もチーム内に居た事でしょう。彼らを認めさすには、「言葉」ではなく、何よりもとにかく「結果」が必要でした。

 このオリンピア戦の結果」をもって、ようやく僕も、レアル・ソシエダの「チームの一員」になれたような気がしました…。


 GKサンドロ・カルカモ、良いプレーをしてくれて本当に、ありがとう…。

 そしてその他の選手全員、監督、コーチ、チームに関わる全ての人たち…良い仕事をしてくれて、本当に、ありがとう…。

 みんな、本当に、本当に、ありがとう…。

 心からの「感謝の気持ち」が溢れてきました…。


 次は中2日で、「ホンジュラス4大ビッグクラブ」の1つである「レアル・エスパーニャ」とのアウェー戦です。



「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Olimpia!2013.2.24⑧
 


つづく



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