全米を賑わせた実在の「メイ・ディセンバー事件」は、犯罪か純愛か。
36歳の女性と13歳の少年が起こした不倫スキャンダルを追う、ある女優。
映画「メイ・ディセンバー ゆれる真実」
36歳の女性が、アルバイト先の13歳の少年と情事に及び実刑に。
少年との子供を獄中出産し、刑期を終えた後に二人は結婚。
年齢差や立場を考えたら、かなりセンセーショナルな事件。
愛を貫き成就させたその後の顛末は、犯罪より純愛に思えるが。
23年後に事件の映画化が決定し、主演を演じる女優エリザベスは。
モデルになったグレイシーとジョーを訪ね、取材することに。
役作りのため、事件の真相を伝えるために真実に迫ろうとする。
当事者である夫婦の中に、よそ者が入り込み行動を共にする。
二人はさらに子供を授り、周囲に愛され平穏な日々を送っている。
世間の好奇の目に晒される一方で、応援し支持する人もいるが。
いまだに嫌がらせ行為も続くが、もはや慣れていると分かる。
したたかさと弱さと儚さを、同時に醸し出すジュリアン・ムーア。
年下を操り支配する怖さと、壊れそうな繊細さを併せ持つ危うさ。
狡猾なのか純粋なのか分からない感じがお見事で、翻弄される。
世の理不尽な攻撃にひるまず、堂々と振る舞うのは強さか鈍さか。
そんなグレイシーの真意に迫る、女優のナタリー・ポートマン。
互いに腹を探り合うような駆け引きが繰り返され、スリリング。
エリザベスは周囲の関係者に取材を重ね、調査を進めていく。
過去の真相と現在の秘められた感情が、徐々に明らかになる。
担当した弁護士が言うように、周囲に多くの影響を与えている。
幸せな現在の状況は、傷付いた人の犠牲のもとに成り立つのか。
希少な蝶の蛹を大切に育て、成長すると解放する夫のジョー。
これも彼自身を象徴するメタファーだと、演出の意図を感じる。
息子の前で弱々しく泣き出すところも、あまりに幼く子供っぽい。
自覚も覚悟もないままに、大人にならざるを得なかった苦悩。
穏やかな夫婦の日常に、じわじわと侵食していくエリザベス。
グレイシーになろうとするあまり、二人の歪みに変化を見せる。
化粧方法の指南を得て、グレイシーを憑依させる姿にゾクゾク。
演じる役を理解しようとする女優魂は、そのままリンクしていた。
そして彼女は、ジョーに対しここまでするか？とまさかの行動に。
倫理観を問うような裏切り行為でも、悪びれる素振りもない。
それも彼女にとって物語のひとつ、どっちがモンスターなのか。
秘密の手紙を手に入れて、ますますグレイシーの狂気に染まる。
ジョーは僕の人生だ！と激高するが、誘惑の弱さに驚いてしまう。
それぞれが奇妙に歪んでいるので、共感出来ない難しさがある。
最後に、子供たちの旅立ちを遠くから見つめる彼の姿が切ない。
成長への喜びより、憧れと羨望が入り混じる複雑さがあった。
対する女性は一貫して強くしたたかで、もはや恐怖を感じるほど。
当事者の証言とよそ者の憶測が交錯し、終始真実が揺れ動く。
夫婦のことは夫婦にしか分からない、近付くほどに見えなくなる。
名女優の見事なやり取りは楽しめたが、苦い余韻を残す作品だった。