映画「ファヒム パリが見た奇跡」 | champagne-bar-tritonのブログ 映画と観劇と浜田省吾

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福岡市にある、「シャンパンバー トリトン」のオーナーです

自身の才能で未来を切り拓いた、小さな巨人の驚きに満ちた感動の実話。
母国からはるか遠く、少年の挑戦は始まった。


映画「ファヒム パリが見た奇跡」

 


冒頭、激しいバングラデシュの内戦で、混乱している様子を映し出す。
そして、幼いファヒムの、いつもの何気ない日常を描いていく。


すでにチェスの才能を発揮しており、父は身の危険を感じて亡命を決意。
時は2011年、わずか8歳で、母国バングラデシュを追われたファヒム。
母親と引き離され、父親と二人で辿り着いたのは、フランス・パリだった。


あてもなく路上を彷徨っていたところ、難民センターに保護される。
亡命者として政治的保護を求めるも、言葉も文化も違う異国ではうまくいかない。


彼らは不法難民なので、滞在許可を求めるのですが、その理由が必要。
移民局では、通訳が全く違う内容を話すので、話が食い違うばかり。
父は仕事を探すが、滞在許可が無いので難しい、という矛盾も生じる。


この父ヌラが、切なくなるほどのダメ親父で実に情けない。
バングラデシュでは、30分くらいは遅刻にならない、と国民性が抜けない。


すでに大人なだけに、異国文化に順応に対応出来ないでいる悲劇。
しっかりした聡明でクレバーなファヒムとは、終始対照的だった。


ある日、ファヒムはフランス国内でも、チェスの有数のトップコーチであるシルヴァンと出会う。
バンバン壁を叩きながら指導する姿は、威圧的で粗野で怖そうだが。


心根は優しく、懐が深く、大らかな素晴らしい指導者であった。
2人は、国籍も年齢も離れた師弟関係となり、信頼と絆を構築していく。


シルヴァンはファヒムの才能を見抜き、さらに上達していくよう指導を施す。
同じチェス仲間たちも、ファヒムを受け入れ、共にチェスに励んでいく。


社会から孤立し、交流も無く、孤独なままでいる父とは正反対に。
仲間が出来たファヒムは、半年間でフランス語を習得し、フランスに馴染んでいく。


まだ幼い分、柔軟性もあり、吸収も早く、環境適応能力に長けている。
賢いだけに、覚える事も早いし、国籍や文化の壁を乗り越えていく。
ナイフとフォークを使いこなすファヒムを見つめる父の姿が、可笑しかった。


チェスの地方大会にも参加し、才能を発揮するのだが、ここでも遅刻。
お父さん・・・何をやっているんだろうか、ダメ過ぎてもう・・・。

 


そんなファヒムは、移民局の通訳の嘘を見抜き、自ら通訳するのだが・・・。
すでに数か月が経過し、厳しい状況へと追い込まれていた。


結局、亡命は認められず、強制送還の脅威に晒されることとなる。


祖国に妻と幼い兄弟を置いたまま、早くフランスに呼び寄せたい一心。
帰るに帰れず、父は再び路上生活となり、監視の目を潜り抜けながら暮らす。


父としての威厳を見せたいが、ファヒムに頼るしかないふがいなさ。
もどかしいジレンマが、切ないやら呆れるやらでやるせない。


絶望的な状況の中、ファヒムは仲間内を転々として暮らすのだが。
ついに諦めて、父と共にホームレス生活となってしまう。


シルヴァンたちは、ファヒムがフランス王者になる事が解決策だとして。。。
救いの手を差し伸べ、再び勝負の世界へ、チェスの全国大会に挑戦させる。


シルヴァンとの世代を超えた友情と師弟愛も、ホッコリと心温まる。
初めて見る海の景色に、ファヒムの心が救われる姿は感動的だった。
ファヒム自身の成長と、勇気と挑戦の戦いの物語でもある。


そうして挑んだ大会で、勝ちにこだわったファヒムの健闘ぶり。
このあたり、チェスのルールを知っていれば、もっと理解が深まるのかも。


ファヒムの頑張りで、奇跡を起こしていく人生逆転劇は爽快だった。
周囲の人物にも大きな影響を与え、変化をもたらしていたと分かる。


ラストで、偶然だがあの人と話す機会を得たマチルドが語った言葉も秀逸。
ずっと事情を知りながら、彼らに寄り添い支えてきた彼女ならではのあの言葉。
フランスに限らず、他国にも当てはまるんじゃないだろうか。


幸運が重なり、才能に恵まれていたことで、奇跡を産んだファヒム。
実話らしく、最後に実在の人物が登場するのも、深みがあった。
シルヴァンのその後のエピソードなど、興味深くて驚いた。


自らの手で運命を切り開き、明るい未来を掴む、サクセス・ストーリーだが。
ファヒムたちはあくまでも恵まれていたケースだろうから、考えさせられた。


実際には、強制送還され、バラバラになった家族も多くいる事だろう。
全てがラッキーとはいかない難しさ、問題の根の深さも感じた。


なので、手放しで喜べない複雑さがあり、少しモヤモヤが残った。


ファヒムを演じた、実際に撮影の3か月前にフランスに移住したばかりの、アサド・アーメッド。
等身大でファヒムを見事に体現していて、ピュアな瞳が良かった。
純粋に、チェスに賭ける想いが伝わって来て、お見事でした。