映画「I(アイ)人に生まれて」(DVD)…台湾発の難問題作品 | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:生而為人 Born to be Human 製作年:2021年
製作国;台湾 上映時間:105分



レンタル屋の新作棚で見つけたのは、一風変わったテーマの台湾作品.
本年度累積142本目の鑑賞はインターセックスを扱った作品.
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ヒトの性の成り立ちとなる性染色体、性腺、内性器、外性器のいずれかが
非定型的な先天的体質である「性分化疾患(インターセックス)」を題材に、
自分の生き方やアイデンティティに葛藤する少年を描いた中国発の
社会派ドラマ.

ゲームが好きな14歳の少年シーナンは、ある日激しい腹痛に襲われ、
トイレに駆け込むと尿が血のように赤く染まっていた.両親がシーナンを
病院に連れて行くと「性分化疾患」であることが判明する.

両親は本人に病気のことを伝えないまま、性転換手術を受けることを
決めてしまう.性自認は男性であるにも関わらず、女性として新しい街
で生活しはじめるシーナンだったが…….

Netflixドラマ「返校」のリー・リンウェイが主演を務め、「縄の呪い2」の
ベラ・チェン、「夜に逃れて」のイン・ジャオトーが共演.
アメリカで映画制作を学んだリリー・ニー監督が長編初メガホンをとった.

以上は《映画.COM》から転載.
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先天的な病疾患「性分化疾患(インターセックス)」を扱った作品.
インターセックスとは端的に言うと両性具所有者.
子宮や膣を持ち、陰茎と精囊も持つ.陰茎を持つがゆえ、最初は
男性として区別されるが、正しくは遺伝子染色体を検査し、
XY染色体なら男性、XX染色体なら女性とされる….
 

 

2008年、性自認と外性器が男だったがゆえ男性として育てられた
14歳の少年が、性分化疾患と診断されて、知らない間に女性に
性転換手術をされてしまい巻き起こる話.

この知らぬ間に…というのが根本の問題点.両親も医師も本人に
知らせないし、同意なんかもってのほか、であった.
子供は親の所有物では無いし、14歳の一個の個人、“人”である.
本人に全く知らせないで、という両親が信じられない.

母親に至っては、息子が娘に変わり子も産めると言うことで、
孫の顔が見られると喜ぶ節も見え隠れしている.親にして、この
調子で、子供の気持ちに寄り添わないことから、彼女の人生は
破綻してしまっている.

主人公シーナンを演ずるリー・リンウェイが持つユニセックスな魅力
が一際光る.彼女の演技の高さや、演出の細かさも充分演技しきって
いる. 終始見せる猫背の演技も若干オーバー演出に映るが、生きる
ことに自信を無くした主人公の気持ちを表するには判りやすい演出
であろう.

最初に述べたとおり、子供本人に寄り添わない大人が悪いと一義的
に決めつけられるだけでは無い奥深さが存在する.
主人公自身も自己主張を発揮出来ない性格を持っているし、友人に
自らの出所を話してしまうという決定的なミスも犯してしまう.

親友と言えども他人事だ.あっと言う間に学内で広まる噂の渦、
そして必然的に発生するイジメ.傷に塩を塗り込められるような他人
からの攻撃に主人公の心はすさんでしまう.
 

 

そして迎えるエンディング.
医者の家に行って、殺すと思ったが殺さず、家に帰る迄に自殺を
想像させる商店街の店での解体シーン、最後の花屋で購入した、
医者宅で、医師がジグソー(性的モザイクの暗喩)に興じていた
ゴッホのひまわりを模倣したひまわりを自宅にお土産にする.
 

 

そして、自室で着飾り、化粧をして、踊る様は精神が崩壊して、
これからの"ヴィラン"としての新たな再生を匂わす不気味な笑顔
で締めくくる.

一瞬、ホアキン・フェニックスが演じたジョーカーが悪に目覚めた
シーンを思い出してしまった. この世を呪う準備は充分であり、
これからの復讐を誓う彼女は、どんな狂気の行動を示すのか?
これは観客の想像に丸投げされてしまった.