製作年:2023年 製作国:日本 上映時間:120分
昨年春の公開時はマイナー上映で観られなかった作品.最近レンタルDVD化
されたので、早速借りだしてみた.本年度累積140本目は藤井道人監督作品.
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「新聞記者」「余命10年」の藤井道人監督のオリジナル脚本を、横浜流星主演
で映画化したヒューマンサスペンス.「新聞記者」「ヤクザと家族 The Family」
「空白」などを手がけ、2022年6月に他界した河村光庸プロデューサーの
プロデュース作品.
美しい集落・霞門村(かもんむら)に暮らす片山優は、村の伝統として受け継がれ
てきた神秘的な薪能に魅せられ、能教室に通うほどになっていた.
しかし、村にゴミの最終処分場が建設されることになり、その建設をめぐるある
事件によって、優の人生は大きく狂っていく.
母親が抱えた借金の返済のため処理施設で働くことになった優は、仲間内から
いじめの標的となり、孤独に耐えながら希望のない毎日を送る.そんな片山の
日常が、幼なじみの美咲が東京から戻ったことをきっかけに大きく動き出す.
優役を横浜、美咲役を黒木華が演じるほか、古田新太、中村獅童 、一ノ瀬ワタル、
奥平大兼、作間龍斗、杉本哲太らが顔をそろえる.
以上は《映画.COM》から転載.
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題名が示すとおり、文字通り“村”での暮らし、生き方、人生、…の難しさを描く.
過疎化が各地で進む日本ならではの物語だ.産廃処理の補助金頼みで運営
されている自治体、その誘致も運営もきれいごとでルール通りにやっている
だけではままならない.
村を守りたいという意志はウソではないが、守るためにたくさんのウソが必要
になる.村のPR事業に駆り出されることになった主人公優:横浜流星も、ウソ
が必要である現実にのみ込まれていく.
やはり横浜流星がすごく画になる.前半のにごった目つきから、中盤に生き生き
としてくる変化量に驚く.そして転落しかける終盤へと変わりっぷりが上手い.
アクションだけじゃない、人間味を良く出し切れる役者と感じた.
脇の役者の層も厚い.都会での暮らしに疲れ果て、心を壊して帰郷した美咲に
黒木華は適役と感じた.美咲に想いを寄せ乱暴しようとして殺される透役に
一ノ瀬ワタルが憎まれ役として上手い演技を見せてくれる.
更に、能の師匠でもあり警察官役の大橋光吉に中村獅童、その兄で村長である
大橋修作に古田新太とベテラン勢がしっかりと脇を固めていて、観ていても、
安心感がある.
村の閉塞社会は、息苦しいが、その中で守られてきた美しい伝統もまた存在して
いることも描かれている.作中に登場する能の演目「邯鄲」(かんたん)で語られる
「平民から栄華を極めて五十年、と思ったらほんのひとときの夢だった」という話と、
横浜流星が演じる優の人生の浮沈との対比が儚いと感じた.
人生とはしょせん儚い夢なのか、というテーマが根底に息づいている.
地方の閉鎖的なコミュニティー、地元の権力者(組織)の不正と抗って自殺した父親、
主人公が巻き込まれていく昼の表向きの仕事と夜の裏稼業、そして内に募らせた
恨みや怒りを外からのプレッシャーによりついに爆発させる主人公を上手く演じた
横浜流星の演技が全てだったかも.
社会全体が下降している日本の現実の一端に確実に触れた作品.
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