映画「SISU シス 不死身の男」…強い精神による不死身の体. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:Sisu  製作年:2023年
製作国:フィンランド 上映時間:91分  R15+



昨秋の公開時、ずいぶん話題になったのだけど、観落としてしまった作品.
ようやくレンタルDVD化されたのでさっそく借りだして観た.
本年度累積135本目はフィンランド発の痛快アクションもの.
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第2次世界大戦末期のフィンランドを舞台に、不死身の老兵とナチス戦車隊
の死闘を描いた痛快バイオレンスアクション.

1944年、ソ連に侵攻されナチスドイツに国土を焼き尽くされたフィンランド.
老兵アアタミ・コルピは掘り当てた金塊を隠し持ち、愛犬ウッコとともに凍てつく
荒野を旅していた.

やがて彼はブルーノ・ヘルドルフ中尉率いるナチスの戦車隊に遭遇し金塊と
命を狙われるが、実はアアタミはかつて精鋭部隊の一員として名を馳せた
伝説の兵士だった.アアタミは使い古したツルハシ1本と不屈の精神を武器に、
次々と敵を血祭りにあげていく.

タイトルの「SISU(シス)」とはフィンランドの言葉で、日本語への正確な翻訳は
難しいが、すべての希望が失われたときに現れるという、不屈の精神のような
意味合いを持つ.

「レア・エクスポーツ 囚われのサンタクロース」のヨルマ・トンミラが主人公アアタミ、
「オデッセイ」のアクセル・ヘニーがヘルドルフ中尉を演じた.
監督・脚本は「ビッグゲーム 大統領と少年ハンター」のヤルマリ・ヘランダー.

以上は《映画.COM》から転載.
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先ずは、主人公がソ連兵を大量殺戮したのに、本作ではドイツ兵と闘うのが
腑に落ちなかったので、少し歴史の勉強をしてみた.

第二次世界大戦が勃発すると、ソ連はヒトラーとの密約に基づきポーランドに侵攻、
その東半分を占領した.さらにフィンランドに対し、国境地帯の領土割譲と基地提供
を要求してきた.フィンランド政府が拒否すると、不可侵条約を破棄し、1939年
11月30日、侵攻を開始し、ソ連=フィンランド戦争が開始された.

思えば、ソ連(現ロシア)は侵略が身に染みついた国家なのだよね.歴史は繰り返す.
フィンランド軍はマンネルヘイム将軍のもと、凄絶な戦闘を続けてソ連軍を阻止、
またイギリス・フランスのソ連批判も強まり、国際連盟もソ連を除名する措置を
とったので、1940年3月、平和条約が締結され講和した.
フィンランドはヴィープリ県やカレリア地方などを割譲、また2万5千人の戦死者を
出した.これを第一次ソ連=フィンランド戦争、別名「冬戦争」とも言われる.

しかし、依然としてソ連の圧力を受けていたフィンランドは、ドイツへの協力に傾き、
1941年6月、独ソ戦が開始されると同時にソ連との戦争再開に踏み切った.
結果的にこれはフィンランドが枢軸国側につくこととなり、連合国側から敵視される
ことになる.
カレリア戦線ではソ連軍が大規模な砲撃と爆撃機による大攻勢を展開、
フィンランド軍は何とか踏みとどまったが、44年9月、ドイツ側から離脱すること
を条件に和平が成立し、ふたたび領土の割譲と賠償金をソ連に対して認めた.
この第2次ソ連=フィンランド戦争は「継続戦争」とも言われ、6万5千の戦死者を
出した.

そんな1944年、撤退するドイツ軍が「焦土作戦」として敵に利用されないように
街や施設に火を点ける作戦を実施していた.
そんな背景でのこの物語が存在する.

第二次大戦末期のフィンランドにおいて、ソ連やナチスドイツによって国土を
踏みにじられた記憶を根底に置きつつ、奇しくも遭遇した主人公とナチスの
戦車隊が壮絶バトルを繰り広げる様を描く.

CHAPTER1から8までの章立てになっていて、テンポも良く歯切れの良い
構成なのが好感.全体の尺も91分に収めてあるのが良い.
アクション、バイオレンス、ストーリーともに無駄を削ぎ落とし、それでいて
一瞬一瞬の見せ方、振り切れ方によって観る者の心をゆさぶってくれる.

第1章では、荒野で初老男が金を採掘する姿が描かれる.米のゴールド
ラッシュの時代をも思い起こさせるようなシーンだ. 先ずは河で砂金を見つけ、
その後、穴を掘っては金塊を見つけてしまう.

以降、こっそり街へ行き換金しようと馬で向かうが、途中すれ違ったドイツ軍
の小隊に金塊を持っていることを発見されてしまう.もうドイツ敗戦の色濃い
時期だ.本国へ帰れと言う命令を無視して、戦後の生き残りに必要な金塊を
追いかける.こうして老人対ドイツ軍小隊の闘いが始まる.
 

 

ところがこの老人アアタミ:ヨルマ・トンミラはフィンランド軍の特殊部隊出身、
ソ連・フィンランド戦争ではソ連の兵士を350名も殺したという達人であった.
ドイツ本部の指示は、“怒らせるな”、“近寄るな”であった.金魂に目が眩んだ
ヘルドルフ中尉:アクセル・ヘニーは聞く耳を持たない.なにせ重火器もあり、
戦車も1台、トラック1台分の兵隊もいるのだから.

最初の出逢いはかわしたものの、アアタミは馬ごと地雷で吹っ飛ばされて
しまい、手傷を負ってしまう.この老兵の強みは傷ついた体を治しながら
闘うことができるのが素晴らしい.

老兵は驚くほど言葉を発しないが、体に刻まれた無数の傷跡は雄弁だ.
そして彼が強いのではなく、決して諦めず、極限の中にあっても死ぬことを
拒み続けるからこそ、死なないのだという論法と、それを裏付ける彼の
戦いぶりに不思議と納得してしまう.まさにこの精神性こそがシスなのだ.
 

 

時には自らに火をつけ、河に飛び込み、ドイツ兵の喉をかき切って、息を
嗣いで、潜り続けたりと生への執念を見せる.が、愛犬にダイナマイトを
仕掛けられて、それを外したものの爆風で飛ばされ、金魂を奪われて
しまう.そのあげく縛り首にあってしまうのだが、なんと息を吹き返して
しまう.この精神力による生命力のすざまじさは感動ものである.

そして唯一の武器であるツルハシ一つで、ドイツ軍小隊の追跡が始まる.
バイクを奪い、トラックの車体の裏側にへばりつき、トラックに軟禁されて
いたフィンランド女性たちを味方につけ、ドイツ兵たちを片っ端から
かたづけていくのは爽快の極みだ.
 

 

そして最後は、一人だけチャーターした軍用機(DC-3だったりする(汗))
で逃げようとするヘルドルフ中尉との一騎打ち….
なんとその機体は墜落してしまうのだけど、アアタミは生き延びてみせる.

善悪はっきりしているし、強い老人を観るのは気持ちが良い.
手に汗しながら思いっきり楽しめる91分間であった.