映画「オマージュ」(DVD)…これは女性による映画愛の表現. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:Hommage 製作年:2021年
製作国:韓国 上映時間:108分
 

 

ちょい前の作品なれど、昨年春の日本公開だった作品.埋もれていた名品を
探し出した気分.本年度累積112本目の観賞は映画愛に溢れた韓国作品.
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映画の修復プロジェクトに携わることになった女性映画監督が、フィルムの
修復作業を通して自分の人生と向き合い、新たな一歩を踏み出す姿を
描いた韓国の人間ドラマ.

ヒット作に恵まれず、新作を撮る目処が立たない映画監督の女性ジワンは、
60年代に活動した女性監督ホン・ジェウォンが残した映画「女判事」の
修復プロジェクトの仕事を引き受ける.

作業を進めているとフィルムの一部が失われていることがわかり、ジワンは
ホン監督の家族や関係者を訪ね、失われたフィルムの真相を探っていく.
その過程で彼女は、今よりもずっと女性が活躍することが困難だった時代の
真実を知り、フィルムの修復が進むにつれて自分自身の人生も見つめ
直していくことになる.

主人公ジワン役は、「パラサイト 半地下の家族」で高台の豪邸に暮らす
社長一家の家政婦を演じたイ・ジョンウン.共演に「あなたの顔の前に」の
クォン・ヘヒョ、「愛の不時着」のタン・ジュンサンら.
2021年・第34回東京国際映画祭コンペティション部門出品.

i以上は《映画.COM》から転載.
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まぁ、華のないヒロインだこと(笑).「パラサイト半地下の家族」(2019)

で、高台の豪邸の社長一家の家政婦を演じたイ・ジョンウンの初主演作品.

 

彼女が演じるのは、映画監督としてのキャリアも、妻、母親としても中途
半端なジワン.監督作品の上映館は閑古鳥が鳴き、息子にはつまらない、
監督を辞めればと言われてしまうほど.
 

 

次回作を撮る目途も立たず、生活費にも困りはじめた時、アルバイトの話
が舞い込むのだが、それは1960年代に韓国で活動した女性映画監督
ホン・ジェウォンが残した映画の修復だった.

映画のタイトルは「女判事」.モデルは韓国初の女性判事.監督は韓国初
の女性映画監督:ホン・ジェウォン.渡されたフィルムの中盤以降音がない.
修復の手がかりを求め、まるでそのジェウォン監督に導かれるように、
ジワンは「女判事」に関わった人々に会いに行く….

本作の特徴は、物語や登場人物などが二重三重の構造になっていること.
現代の女性監督が60年代の女性監督が手掛けた韓国初の女性判事
の映画の修復を行うという設定であるし、本作自体ののシン・スウォン
監督も女性である.キーポイントとなるのは“女性”であるのだ.

3作撮ったものの、鳴かず飛ばずのジワン監督.精神的にも落ち込み、
肉体的にも子宮筋腫が肥大していて緊急手術の目にも.
そんな所に持ち込まれた韓国初の女性監督が撮ったという作品の
修復.しかもその内容は韓国初の女性判事を扱った内容.

近頃の企業や社会での女性の地位評価の浸透度の国別結果が
報道されたが、先進国の中では日本はビリから2番目であった.
実はビリは韓国…日本も酷いがそれ以下に韓国も男尊女卑の
社会であるのだ.

そんな社会の風潮の中で、葛藤する女性“監督”や女性“判事”が
描かれる.ジワン監督はかつての韓国初の女性監督:ホン・ジェウォン
の足取りを追うが、それはやはり女性としての苦闘の歴史を遡る
ことになる.

行きつけの喫茶店で脚本を書きなぐって苦悩する姿や、一緒に
働いたフィルム編集者の言動から、当時の女性蔑視の中で、
もがくホン・ジェウォン監督の姿が判ってくる.

後半になると、ジワンの妄想なのだけどトレンチコートを着て、帽子を
深々と被ったホン・ジェウォン監督が登場する.さびしくタバコを吸って
いたり、街角にハンディタイプのカメラを向けたり…印象的なシーンだ.

映画「女判事」の失われたフィルムを探して訪れた廃墟寸前の映画館
のシーンが素敵だった.電気は止められ予備電源で映写機を駆動して
ピンク映画を上映して営業していたのだ.

当時は映画館がフィルム買取する仕組みであったよう.ジワンは
「女判事」のフィルムを偶然発見する.これを朽ち果てそうな映画館
で見るシーンは素晴らしいものであった.色んな意味での映画愛の
発露のシーンであった.

 



フィルムはなんと帽子の飾りとしてフィルムが巻き付けられていた….
ホン・ジェウォン監督の元同僚のフィルム編集者に、バラバラのフィルム
をつなぎ合わせてもらい、二人で観るシーンはクライマックスだ.
 

 

それは、女判事が海岸でタバコを吸うシーン.当時女性がタバコを吸う
というだけで、検閲にかかりカットされたことが判った…失われたフィルム
までが、女性蔑視の証しだったとは…皮肉な結論なのだが、ジワンは
何かしら納得の表情を見せる.
 

 

そして、ラストシーンは映画祭でちゃんと「女判事」が上映されている
模様で終わる.ジワンはそれなりの決着をみせたのであろう.

本作の脚本も手掛けたスウォン監督は、いつもこれが最後の映画に
なるのではないかと思い悩みながら監督業を続けているそう.
映画を撮ることを諦めないジワンに自身を投影させた感が見え隠れする.

映画は記録であり、なおかつ幻想でもある.いろんな理不尽がありながら、
映画には人を魅了する力がある、その本質の一端を見せてくれる作品.
女性目線の映画愛に溢れる佳作であった.