映画「Peral パール」(DVD)…ミア・ゴスの怪演、快演!! | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:Pearl 製作年:2022年 
製作国:アメリカ 上映時間:102分 R15+


前作「X エックス」は観たのだけど、この昨年夏公開の第2作は観落としてしまった.
最近ミア・ゴス出演作品を観て、その“凄さ”を知り、本作を観たいと思いDVDで.
本年度累積90本目はA24作製のホラー作品.
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タイ・ウェスト監督、ミア・ゴス主演のホラー「X エックス」のシリーズ第2作で、
1970年代が舞台だった「X エックス」の60年前を描く前日譚.
「X エックス」に登場した極悪老婆パールの若き日を描き、夢見る少女だった
パールがいかにしてシリアルキラーへと変貌したかが明らかにされる.



スクリーンの中で歌い踊る華やかなスターに憧れるパールは、厳格な母親と
病気の父親と人里離れた農場で暮らしている.若くして結婚した夫は戦争へ
出征中で、父親の世話と家畜たちの餌やりの毎日に鬱屈とした気持ちを
抱えていた.

ある日、父親の薬を買いにでかけた町で、母親に内緒で映画を見たパールは、
ますます外の世界へのあこがれを強めていく.そして、母親から「お前は一生
農場から出られない」といさめられたことをきっかけに、抑圧されてきた狂気が
暴発する.

前作で主人公マキシーンとパールの2役を演じたミア・ゴスが今作でも
主演を務め、若かりし日のパールを演じてるほか、脚本と製作総指揮にも
名を連ねている.

以上は《映画.COM》から転載.
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前作「X エックス」は荒々しいスラッシャー・ムービーだったが、その60年前の
前日譚の位置付けの本作とは大きく様式の違う冒頭5分で驚いてしまう.
流麗なオーケストラ音楽とともに映し出されるメインタイトルは、発色の強い
テクニカラー風の映像といい、パール:ミア・ゴスが動物たちと戯れる農場の
牧歌的な風景といい、まるでハリウッド黄金期のメロドラマのような幕開け.

ところがそのファンタジックなイメージはすぐさま霧散し、車椅子の廃人同様な
父親を看護しながら、異常なまでに厳格な母親に抑圧されるパールの
閉塞した現実が立ち現れる.この導入部がわりとスッとその世界に入っていける.

町の映画館を訪れたパールはハンサムな映写技師と知り合い、「私は絶対に
スターになる」「ヨーロッパに行く」という夢をふくらませるのだが、ほとんど
根拠のない妄想.罪のないガチョウを殺したり、トウモロコシ畑で案山子とダンス
してみせたり、パールは内なる狂気の芽生えを見せる.
 

 

独断的な母親との葛藤、絶望的な父親の介護とパールの中の不満と葛藤は
どんどんと膨らんでいくのを、怪優ミア・ゴスは演じてみせる.危うい現実逃避を
繰り返しながら暴力衝動を炸裂させていくパールの変容具合は、まさしく純真な
少女のような人妻がサイコパスのシリアルキラーへと怪物化する軌跡だ.

土曜に教会で行われる、米国内ツアー出来るというダンサー・オーディションは
本作の一つのクライマックス.納屋で動物たちに披露していた練習の成果を
思う存分踊ってみせるパールは天にも昇るような喜びに満ちていた.



が、審査員が求めているものとは違うと、落選の烙印を捺される.
その落胆、落ち込み方の演技がまた凄いのだ.ミア・ゴスはこの世の終わりの
ような表情を見せる.

そして、審査員が求めるとおりだった義姉妹のミッツイー:エマ・ジェンキンス=
ブーロは合格してしまうのだが、余りのパールの落胆ぶりを見て、彼女の家まで
付いて行く.そこでパールの内心の告白を聴き、恐れをなして逃げようとするが、
パールの狂気の手にかかってしまう.

しばしばドラマにおいては、愛がずたずたに引き裂かれ、夢が木っ端微塵に
吹っ飛んだ主人公が、はっと現実に引き戻されたときこそが最も悲しい瞬間と
なるが、ホラー映画である本作のそれは“最も恐ろしい瞬間”にほかならない.

そしてエンドロールに流れ続けるミア・ゴスのクローズアップが凄い.
こんなにも切なさと狂気がごちゃ混ぜになった表情を魅せるミア・ゴスの
演技力にはほとほと感心させられた.

ミア・ゴスは本作で脚本も制作も兼務するスーパーぶりを見せている.
さて、この調子なら3部作の最後を飾る次作は興味津々になっちゃうなぁ….