映画「フォロウィング」…驚くべきノーランのデビュー作! | チャコティの副長日誌

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原題:Following 製作年:1998年
製作国:イギリス 上映時間:70分



クルストファー・ノーラン監督の処女作がデジタル・リマスターで

リバイバル上映されると聞いて、さっそく柏のキネマ旬報シアターへ

出かけ観てみた.
本年度累積86本目の観賞は、今から26年前の作品.
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クリストファー・ノーラン監督が1998年に発表した長編デビュー作.
他人の尾行を繰り返す男が思わぬ事件に巻き込まれていく姿を、
時間軸を交錯させた複雑な構成で描き出す.

作家志望のビルは創作のヒントを得るため、街で目に止まった人々を
尾行する日々を送っていた.そんなある日、ビルは尾行していることを
ターゲットの男に気づかれてしまう.

その男コッブもまた、他人のアパートに不法侵入して私生活を覗き見る
行為を繰り返しており、ビルはそんなコッブに次第に感化されていく.
数日後、コッブとともにアパートに侵入したビルは、そこで見た写真の
女性に興味を抱き、その女性の尾行を始めるが…….

1999年・第28回ロッテルダム映画祭で最高賞にあたるタイガーアワード
を受賞するなど高く評価され、鬼才ノーランの名を一躍世界に知らしめた.
2024年4月、デジタルリマスター版にてリバイバル公開.

以上は《映画.COM》から転載.
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いまや名監督のクリストファー・ノーランの初作品.低予算がゆえ、モノクロ
短尺(70分)、照明が使えず暗い画面、手持ちのカメラでの撮影.
脚本、監督、撮影とクレジットされており.おそらくカメラを回したのも
ノーランなのであろう.主たる役者も3人位で安く上げた感いっぱい.

ところが、驚くべきことにノーラン得意の時制のゆらぎというかシャッフルが
効いていて、こんな初めての作品にでもノーラン節が発揮されていることに
驚いてしまう.
 

 

作家志望の失業中の若い男ビル:ジェレミー・セオポルドが、ロンドンの街で
見知らぬ人を尾行する(Following)が、しっかりした身なりの男コブ:アレックス・
ハウと巡り合う.男の空き巣狙いに同行するうち、男の勧めに従って、髭を剃って
髪を短くし身なりを整える.

ところが、映画では、ビルは冒頭で、既に短髪になった姿で出てきて、
すぐにコブと初めて出会ったところがフラッシュバックされる.
当然、その頃はまだ長髪だから、見ている方は一瞬、戸惑う.

登場人物が少ないから判るものの、髪が短く出てきて、長くなって、そして髪を
切るシーンが出て来る….ノーランは見ている者を緊張させ、戸惑わせる.
その後もずっと時制は行ったり来たりする.

若い男は作家志望だからか、ドストエフスキーの「罪と罰」の訳本をガイド本と
共に読んでいる.これはノーラン監督が大学で文学専攻だったことに由来するのか?
さてはこの後老婆殺しがあるかなと思っていると、コブの口からはその旨が
出てくるのだけど、それはブラフでしかなかった.最後の種明かしで明らかに
なるのだけど、いかにもノーランらしい緻密な脚本に驚かされる.
 

 

文学の世界では、デビュー作にその作家の全てがあると三島由紀夫が言った
そうだが、このノーランのデビュー作「Following」もまたその例外ではないと思う.
「TENETテネット」や「オッペンハイマー」のエッセンスが全てこの作品に見出すこと
が出来る.或る意味では26年間、変わらないものを追求し続けているというべきか.

時間をあっちにこっちに飛びながらその謎を解明していく王道ノーラン節を味わう.
それでいて、今のような3時間コースではなくコンパクトに70分に納めてくれて
観る側への配慮もなされている.
加えて、作中できっちりと種明かしもしてくれるので今より親切だと感じた次第.

この作品の後、ノーラン監督は名作「メメント」をリリースする.
「メメント」の自分のレビューを読み返してみたら、最後にノーランの初作
「Following」も観てみたいと書いてあった….
期せずして目標達成ということか(笑).


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