映画「リンダはチキンがたべたい」…手作り感がウリかも. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:Linda veut du poulet! 製作年:2023年
製作国:フランス 上映時間:76分



予告を観て気になっていたフランス製アニメ作品.日本のアニメとは全く異なる
コンセプトと手法のアニメーションに驚きをもって観賞.
本年度累積82本目はMovixつくばまで遠征して観賞してみた.
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チキンをめぐって母娘が巻き起こす騒動と亡き父の記憶をカラフルな色づかい
で描き、アヌシー国際アニメーション映画祭2023の長編アニメーション部門で
最高賞にあたるクリスタル賞に輝いたアニメ映画.

とある郊外の公営団地に暮らす8歳の女の子リンダと母ポレット.ある日、
母の勘違いで叱られてしまったリンダは、間違いを詫びる母に、亡き父の
得意料理だった「パプリカ・チキン」を食べたいとお願いする.

しかしその日はストライキで、街ではどの店も休業していた.チキンを求めて
奔走する母娘は、警察官や運転手、団地の仲間たちも巻き込んで大騒動を
繰り広げる.

監督・脚本を手がけたのは気鋭の映画作家キアラ・マルタと「大人のための
グリム童話 手をなくした少女」のアニメーション作家セバスチャン・ローデンバック.
実生活では子を持つ夫婦である2人が、ユーモアといたずら心を織り交ぜながら
詩的な表現で描き出す.

以上は《映画.COM》からの転載.
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シンプルすぎるタッチの画、コマ数が少ないがゆえのギクシャクとする動き.
キャラクターにより色が与えてある.主人公のリンダは黄色.母親はオレンジ.
叔母はピンクと明らかな差別化がされ、分かりやすいと言えば判りやすい.
 

 

ハイライトを与えたい表現には、スポット的に色を与える.冒頭母子がもめる
指輪には、グリーンのスポットが与えられる.飼い猫は終始紫色で主張する.
 

 

人物も背景も粗い素描に特定の色を重ねただけという、極めてシンプルな
作画. 群衆シーンは絵の具を散らしたパレットのようにカラフル.画面の情報
を削ぎ落としたことで返って個々の特徴が際立ち、ちゃんと識別も出来る.

かつてジブリの高畑勲監督が「ホーホケキョ となりの山田くん」で見せた
作風を感じさせる.高畑監督はソフィスケイトな色合いだったが、本作は
ほとんど原色系なのが、ポップさを増している.

公営の団地の表現とか、政権に対する不満からのゼネラルストライキとか、
いかにもフランスらしい風景、環境設定にクスリとしてしまう.
なにせ鉄道から全ての店が閉じてしまうから、チキンとかパプリカが全く
買えない…そこからトラブルが始まる.

冒頭、父親が料理を作る場面から始まる.得意な料理、プーレ(チキン)の
パプリカ煮.家族3人でたべている途中で父親が具合が悪くなる.
その後死んでしまったようで、舞台はその数年後のリンダと母の二人暮らし
の様子が描かれる.

母親はずぼらな性格らしく、料理は全て冷凍食品.グラタンとラザニアを
電子レンジでチーンして、リンダにどっちが良いなんて聞いている…(汗).
どうやら、リンダは幼い頃だけど今は亡き父親が作ってくれたチキンの
パプリカ煮が忘れられないよう.

母が大事にしていた指輪を無くしたと疑われたリンダ.その実は飼い猫が
食べてしまっていて、ゲボした中から指輪を見つけた母親は、リンダに
疑った詫びを入れる.なにか願いを叶えてやると言われたリンダは、
チキンのパプリカ煮を所望する.何処の店も開いていないゼネストの日に.
 

 

そこから描かれるスト決行に殉じる大人たちと、チキン料理を巡って騒動
を起こす子供たち.それぞれが「良かれ」と思う方向へ疾走することで事件が
次々と発生する.それらの連鎖と刻々と変転する状況が、軽快な歌と供に
綴られていく.

登場人物たちが懸命に頑張るほど、そこにユーモアや風刺が生まれ、
観客はただハラハラしながら見守るしかない.そこはかと共感と風刺を
感じさせる作りなのだ.

まず演者が自由に演じた声を収録して編集し、それに合わせてアニメーション
を制作したらしい.プロ俳優によるアフレコではなく、友人の子供らを起用した
自然なプレレコーディング方式.非常に残念だったのは今回上映は吹き替え
であったこと.

リンダは落井実結子、母ポレットに安藤サクラ、途中出演のトラック運転手に
リリー・フランキーなのだが、特に上手いとか優れていると言うレベルでは無い.
原語で観たかった、聴きたかった.

作画に参加したアニメーターはわずか7人だったらしい.本作の技術的達成は、
少人数で日々濃密な打ち合わせを行い、机を並べて競うように描くという、
伝統的な制作スタイルを貫いた成果でもある.

大予算の超大作とは異なる素朴な手作り感がウリかなと.

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