映画「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」…これも、それも、映画愛. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2024年 製作国:日本 上映時間:119分



前作は観ていないのだけど、本作の熱さを説く映画ブロ友さんが多く、
柏のキネマ旬報シアターで上映中の本作を観賞.本年度累積71本目.
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若松孝二監督が代表を務めた若松プロダクションの黎明期を描いた
映画「止められるか、俺たちを」の続編で、若松監督が名古屋に作った
ミニシアター「シネマスコーレ」を舞台に描いた青春群像劇.

熱くなることがカッコ悪いと思われるようになった1980年代.
ビデオの普及によって人々の映画館離れが進む中、若松孝二はそんな時代
に逆行するように名古屋にミニシアター「シネマスコーレ」を立ち上げる.

支配人に抜てきされたのは、結婚を機に東京の文芸坐を辞めて地元名古屋
でビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治で、木全は若松に振り回
されながらも持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていく.
そんなシネマスコーレには、金本法子、井上淳一ら映画に人生をジャック
された若者たちが吸い寄せられてくる.

前作に続いて井浦新が若松孝二を演じ、木全役を東出昌大、金本役を芋生悠、
井上役を杉田雷麟が務める.前作で脚本を担当した井上淳一が監督・脚本を
手がけ、自身の経験をもとに撮りあげた.

以上は《映画.COM》から転載.
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映画愛を描いた作品は多いのだけど、本作は映画撮影の面と、映画館興行の
両面を描いているのが特徴.どちらも十分に熱くて、痺れるほどだった.

若松孝二監督を演ずる井浦新、ミニシアター「しねますこーれ」の支配人木全
を演ずる東出昌大、若い井上監督役の杉田雷麟、この3人の映画愛が主に
描かれるのだが、それぞれの映画愛の熱量と種類が違うのが面白い.

井浦新の圧倒的な映画愛は熱量最大、若松孝二さもありなんと思わせる.
撮りが大好きなのだけど、プロダクション経営主としての顔もちらつかせる.
せっかく撮った作品が新東宝が購入してくれないだの、立ち上げたシアター
「しねますこーれ」の観客入りが悪いと、ピンク映画上映を木全:東出昌大に
無理強いしたりと、経営者然と摺るまうのが面白い.
 

 

とにかく井浦新の演技には圧倒される迫力がある.彼自身の映画愛もあれば、
故若松孝二への思い入れもあるのだろう.こんな勢いは誰にも止められない.

映画青年のなれの果ての木全役の東出昌大も新たな持ち味を見せてくれる.
妻に付いてきた名古屋の地で、ミニシアターの支配人役を押しつけられ?、
四苦八苦する役柄.入らない観客数で苦労して、ピンク映画で稼いでは、
その隙間に好きなインディーズ系作品を上映すると工夫している.

長身が仇になって他の役者との釣り合いが取れないのか、背中を丸めて
背丈を隠すような演技を見せる.その姿勢が反映されてか、かつて観たことも
無いような、落ち着いた性格の支配人役を演じている.こんな東出昌大は
初めて観た印象.新鮮だし、見慣れない演技スタイルが楽しめた.
 

 

本作品の監督井上淳一の若き頃を演ずる杉田雷麟.映画への熱情の表し方が
まだ自分でも理解出来ていないひよっこを演ずる.初作「河合塾の青春」の監督
という幸運に恵まれるが、プロデューサー役の若松孝二に半ば監督業を実質的に
乗っ取られてしまう情けない役柄でもある.この自信の無さ、不定な状態の演技が
それなりに似合っていた.

もう一人、学生映画で挫折して「しねますこーれ」で受付嬢をする金本:芋生悠の
存在も忘れがたい.彼女は自分が女であること、才能がないこと、そして在日で
あることを理由に、なかなか一歩を踏み出すことが出来ないでいる.

そして運のある井上に嫉妬したりもしている. 複雑怪奇な感情をもつ女性ではあるが
だからといって彼女が決して魅力的でないわけではない.映画に対する情熱は高いし、
苦しみの中でもがき続ける人間として魅力的でもある.
 

 

小さな名画座で映画人生を始めた身にとっては、「しねますこーれ」の状況は
色褪せない映画の面白さと楽しさが詰まっていて、自らの映画人生の始まりが
蘇って懐かしい気分になれた.

映画を作るのに、主要スタッフ全員が100%納得ずくということがあり得ないこと.
強引に突き進むタイプの監督であっても、あちこちに小さな不満を抱えながら、
限られた予算や人員や時間の中でやり繰りしていること.

ほぼ全員が何かしらの後悔ややり残し感があるのに、いざ映画が出来きあがって、
観客の前で披露できた時にそれなりの達成感と次はもっと頑張ろうと….
監督、脚本家、俳優、その他大勢の裏方…、何かを表現しようとする人たちの
エネルギー、パワー、もどかしさ、人間関係からの苛立ち.

そんなこんなのすべてが凝縮されている映画業界を描いた佳作.
現時点では邦画の一番好きな作品.ベストだ.