映画「コット、はじまりの夏」…鑑賞後ホッと気持ちが温かくなる秀作. | チャコティの副長日誌

チャコティの副長日誌

主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:An Cailin Ciuin 製作年:2022年
製作国:アイルランド 上映時間:95分



待望の作品が柏キネ旬にやってきた.1月公開時はマイナー上映だったので
観落としてしまった.ようやく2番館へやってきた.
本年度累積66本目はアイルランドの作品.
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1980年代初頭のアイルランドを舞台に、9歳の少女が過ごす特別な夏休み
を描いたヒューマンドラマ.第72回ベルリン国際映画祭で子どもが主役の映画
を対象にした国際ジェネレーション部門でグランプリを受賞し、第95回
アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートもされた.

1981年、アイルランドの田舎町.大家族の中でひとり静かに暮らす寡黙な
少女コットは、夏休みを親戚夫婦キンセラ家の緑豊かな農場で過ごすことに.
はじめのうちは慣れない生活に戸惑うコットだったが、ショーンとアイリンの
夫婦の愛情をたっぷりと受け、ひとつひとつの生活を丁寧に過ごす中で、
これまで経験したことのなかった生きる喜びを実感していく.

本作がデビュー作となるキャサリン・クリンチが主人公コットを圧倒的な
透明感と存在感で繊細に演じ、IFTA賞(アイリッシュ映画&テレビアカデミー賞)
主演女優賞を史上最年少の12歳で受賞.
アイルランドの作家クレア・キーガンの小説「Foster」を原作に、これまで
ドキュメンタリー作品を中心に子どもの視点や家族の絆を描いてきた
コルム・バレードが長編劇映画初監督・脚本を手がけた.

以上は《映画.COM》から転載.
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親きょうだいから愛情も関心も注がれず、孤独と不安にひとり耐えるか
のような暗い目をした序盤のコット:キャサリン・クリンチ.預けられた
キンセラ家で、優しく世話をしてくれるアイリン:キャリー・クロウリーと、
当初は不愛想だが次第に打ち解けてくるショーン:アンドリュー・ベネット.

家事や農場の仕事を手伝いながら、里親たちの愛情に触れるうち、
コットの心のこわばりが解け、自ら発する言葉も少しずつ増えていく.

セリフのやり取りからではなく、細かい映像描写や役者たちの表情で
物語るタイプの作品.もの静かに進んでいくので、睡魔に襲われてしまった.
いくつかの象徴的なシーンを観落としてしまっていると思う(泣).
 

 

それでも、夫婦とコットは次第に打ち解けあい、少しの言葉や表情だけで
多くのものを察しあえるほどの愛情で結ばれていく様ははっきりと判った.
この監督の巧みな演出は、言葉数の少ないコットと里親の感情の動きを
巧みに描き出している.

愛されることで自信と自覚が目覚めるコットをキャサリン・クリンチは上手く
演ずる.この作品がデビューだそう.撮影当時は10歳だったそう.
輝く原石を観た気がする.
 

 

愛情を受けること.行動すること.周りの人をを知ること.知ろうとすること.
コットはひと夏でとても大事なことを学んでいく.
邦題は珍しく素晴らしい意味あいをもつ.原題“An Cailin Ciuin”
 (訳:静かな少女)の方が素っ気なさ過ぎと感じる.
 

 

夏休みが終わり、家に戻る日.送り届けられ、立ち去ろうとする親戚
夫婦を走って追いかけ、しがみつくコット…このラストシーンの後は
どうなる? またも観客に投げかけるシーンなのだけど、大半の観客は
その後のハッピーエンドを想像するであろう.もちろん私もだ….

鑑賞後にじわじわと、暖かい気持ちが広がっていく秀作.