映画「はざまに生きる、春」(DVD)…はざまに生きるは春のみならず. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2023年 製作国:日本 上映時間:103分



最近売れっ子の宮沢氷魚主演の作品をレンタル屋の新作棚で発見.
昨年夏の公開時にはかすりもしなかった見落とし作品.
本年度累積59本目の鑑賞.
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「エゴイスト」「レジェンド&バタフライ」の宮沢氷魚が主演を務め、発達障がい
を持つ画家の青年と女性編集者の恋の行方を描いた恋愛映画.

出版社に務める雑誌編集者・小向春は取材のため、「青い絵しか描かない」
ことで有名な画家・屋内透と出会う.発達障がいを持つ屋内は自分の思った
ことをストレートに口にし、感情を隠さず嘘もつけない.人の顔色ばかり見て
生きてきた春にとって、そんな彼の姿は新鮮で魅力的に見えた.
恋人に怪しまれながらも屋内にひかれていく春だったが、相手の気持ちを
汲み取ることが苦手な彼に振り回され、思い悩む.

屋内との恋を通して変わっていくヒロイン・春役に「初恋」「ファンシー」の
小西桜子.出版社で漫画編集者として働きながら自主映画を制作してきた
葛里華が長編初監督・脚本を手がけた.

以上は《映画.COM》から転載.
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役は芸の肥やしと言わんばかりに、さまざまな役柄にチャレンジする宮沢氷魚.
本作では発達障がいを持つ画家を演ずる.
 

 

ピュア、と表現すると一番わかりやすい気もするが、夢中になると止まらない
子供のような無垢さと、物事に対する独特のこだわりの強さ、人の気持ちを
察することができず、思ったことをそのまま口にする、空気を読めない、など、
表面上はコミュケーション障がいに見えてしまう.

その実は、心の中にはもちろんいろんな思いがあって、自身の障害も自覚
した上で、懸命に生きている主人公を巧みに演じてみせる.作品上で
描く青い絵にその心がそのまま表れているようにも見えるのが上手い.
 

 

雑誌の編集者として働くハル:小西桜子は、引っ込み思案で今まで人の顔色
ばかり見て生きてきた女子.彼氏:細田善彦と同棲する間柄にも拘わらず、
屋内透を知るほどに彼に興味がわき、笑顔が増え、心揺さぶられる.
次第に心通じ合い、不器用ながらも惹かれ合う2人.
 

でも彼は、恋をしてる自覚はない.だから、平気で彼女を傷つけてしまう.
全く悪気はないのだけど….前半、中盤と春の独り相撲みたいな恋愛風景
が描かれる.

原題にある“はざま”とは発達障がいのグレーゾーンを指す.
本作には、屋内透のように障害者手帳を持っている人間、グレーゾーンの人間、
おそらくそのどちらでもない人間、いろんなグラデーションの人間が出てくる.

人にレッテルを貼ったり、カテゴライズする馬鹿馬鹿しさは世間に良くあること.
障がい(特性)の有無に関わらず、人とすれ違うことはよくあることで、
わかり合えたと思えば、わかってもらえてなくて落胆する.
わかった気になっていたけれど、思いもよらぬことを言われて自分の驕りを知る.
 

 

その実、本作を観進めていくと、一見普通の春が実はグレーゾーン=はざまの
様に感ずる.健常者か障がい者かグレーゾーンか、無意識にカテゴライズして
観てしまうことが否定され、途中から価値観が覆されるような感覚に襲われる.

春は思う. あなたのことをもっと知りたい… 好きな人とただ分かり合いたいだけ…と.
同棲する恋人にも、大事にされてた春だけど、どんどん気持ちが離れていったのは、
もっと知りたい…とは思われてなかったからか?

春の行動から見て取れるように、程度の大小は別にして多くの人が“はざま”で
生きているのかも知れないと感じた.そんな或る意味の多様性を強く感じた.

もどかしい二人の絶妙な距離感.純粋な恋愛とは違うのかも知れないが、
少なくとも二人はとても純粋な気持ちで惹かれあっていて、そんな愛おしさ
あふれる結末に至る.

宮沢氷魚の透明感とその演技が堪能出来た一作.