映画「夜明けのすべて」…悩める現代病の狭間で. | チャコティの副長日誌

チャコティの副長日誌

主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2024年 製作国:日本 上映時間:119分



予告でちょっと興味をもった作品.上白石萌音はそれほど好きでもないのだが、
力のある役者とは思っている.本年度累積33本目の観賞はTOHOシネマズ柏で.
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「そして、バトンは渡された」などで知られる人気作家・瀬尾まいこの同名小説を、
「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督が映画化した人間ドラマ.

PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さんは、
会社の同僚・山添くんのある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう.
転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな
彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた.

職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、藤沢さんと山添くんの間には、
恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる.やがて2人は、
自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考える
ようになる.

NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じた松村北斗と
上白石萌音が山添くん役と藤沢さん役でそれぞれ主演を務め、2人が働く
会社の社長を光石研、藤沢さんの母をりょう、山添くんの前の職場の上司を
渋川清彦が演じる.
2024年・第74回ベルリン国際映画祭フォーラム部門出品.

以上は《映画.COM》から転載.
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原作は未読.瀬尾まいこの原作からはかなり逸脱しているそう.原作ファンは
かなり怒りをもっているような雰囲気が….「セクシー田中さん」の問題にも
あるように、原作と映画TV化との間には“差”が生じてしまうのはやむなし
なのだけど、要は原作者との間にどれだけ事前にコミュニケーションと同意
がとられているかが課題と思うのだが.

不思議な位置付けの映画だ.闘病ものでもない、もちろん恋愛ものでもない.
主役の松村北斗と上白石萌音の間に恋愛感情は微塵も発生しない.
二人の間に存在するのは、不思議な“戦友”のような感情だろうか.
 

 

方や松村は「パニック症候群」、上白石は「PMS(月経前症候群)」

と言う病に苦しむ.供に症状は全く違えど、治癒とか回復に目処が無い病に、

苦しみ、闘っている.

パニック障害で普通の人が普通にできることができない山添:松村北斗.
例えば、電車に突然乗れなくなるとか.発作が出ると何も一切出来なくなる.
PMSによってイライラが抑えられない藤沢:上白石萌音、前の会社では上司
や同僚に当たり散らし辞めてしまい.今の会社でも毎月その発作でイライラ
している….

相手のことを知らなければ「なんだコイツ」と思ってしまうようなことをお互い
していた2人が、相手のことを知って関わるうちに、男女だろうと苦手な人相手
だろうと、助け合うことはできるということを徐々に認識していく.

二人は普通の企業をドロップアウトして、今はとある教育玩具を製造する小さな
メーカーに勤めている.社長の光石研も含めて周囲の人たちはみなこの二人の
病気に理解をしていて、やさしく見守るようにしてくれている.ガツガツ利益だけ
を追求するでない、喰っていければトントンみたいなノーハングリーさが特徴の
会社ならではの雰囲気が…素敵だ.
 

 

最近はよく男女間のいがみ合いや気に入らない人間には何をしてもいいだろう
というような人たちが多いような風潮の中、この映画の中の人たちの優しさが
そういったいざこざに疲弊したことのある身には余計沁みた.

なにか大きな事件が起こるわけでも、ありえないような設定がある訳でもない.
私たちの日常と地続きの世界で、藤沢と山添が病と闘いながら生きている.

心と体をすりへらす社会で現代人は何かしらの病をもつもの.それは身体的なもの
もあるだろうが、心療的なものも多いと思う. 完治はしないそんな病をだましだまし
付き合って生きている人々にこそ見て欲しい映画だと思う.