映画「ラスト、コーション」 (DVD)…儚い一人の女の生き方 | チャコティの副長日誌

チャコティの副長日誌

主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:色、戒  製作年:2007年  R18+
製作国:アメリカ・台湾・中国・香港合作  上映時間:158分



昨年惚れ込んでしまった韓国作品「別れる決心」のタン・ウェイの出世作品を
DVDで探してきてみた.そこにはまだ二十代の鮮やかな姿態のタン・ウェイが
息づいていた….本年度累積28本目の観賞.
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「ブロークバック・マウンテン」で05年度アカデミー監督賞を受賞したアン・リー
監督が、再び禁断の愛を描いたラブサスペンス.

1942年日本軍占領下の中国・上海を舞台に、抗日運動の女性スパイ、ワン
(タン・ウェイ)と、彼女が命を狙う日本軍傀儡政府の顔役イー(トニー・レオン)
による死と隣り合わせの危険な逢瀬とその愛の顛末が描かれる.

第64回ベネチア国際映画祭では金獅子賞とオゼッラ賞(撮影賞)の
ダブル受賞を果たした.

以上は《映画.COM》から転載.
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中国人女流作家・アイリーン・チャン:張愛玲の短編小説「色、戒」が原作.
日本軍占領下の上海で、大学の友人・クァン:ワン・リーホンに誘われ、
抗日運動に身を投じたワン・チアチー:タン・ウェイは、特務機関の高官イー:
トニー・レオンの暗殺を命じられる.

若く美しいチアチーは貴婦人のマイ夫人だと身分を偽って、虚無的な匂い
を漂わせるイーに近づいていく.互いを警戒し合う2人は危険な逢瀬を
重ねていく.
 

 

通俗の極みとも言えるストーリーだが、この映画には「愛」と「欲」が充ち満ちて
いる.イー:トニー・レオンとチアチー:タン・ウェイ、敵同士である男と女の
激しいラブシーンが3度ある.1度目は服従、2度目は模索、3度目は理解.

さすがR18+指定、これでもかという愛欲の姿が描かれる.
「別れる決心」も強烈な恋愛ものであったが、ラブシーンは一切無く描かれ
ていた.過激な韓国映画には皆無のものがこの中国作品には溢れていた.

2007年ベネチア国際映画祭で上映されるや否や、そのセックスシーンに
ベネチアは騒然となったが…、その結果、金獅子賞(グランプリ)を受賞した.

センセーショナルなラブシーンばかりに目を奪われがちになってしまうが、
この映画でもっともエロティックなのは、男と女の“視線の交わり”だと感じた.

冒頭女性たち4人が他愛もない話をしながら麻雀を打つシーン.
さりげない会話が交わされるが、互いに腹の中を探りあっている.
その視線の交錯が艶めかしく、かつ陰謀に満ち満ちている.
 

 

チャイナドレスを着て貴婦人のマイ夫人になりすましたタン・ウェイが、
麻雀卓に向かっている所にその屋敷の主であるトニー・レオンが帰ってくる.
その時、カメラは2人の視線が交錯するのをとらえる…男と女の視線の交錯
愛と欲の世界の始まりを告げるものであったのを見逃しはしなかった.

目に見えない抗日戦争を描いているのが本作の基本なのだが、視点が面白い.
女性の視点から男性がいかに戦争に突入していくのかを描いているところで、
女性ばかりで麻雀をしているシーンから始まり、彼女たちははっきり言わない
けれど、さまざまなことを考えていることが分かる.

はたして、イー夫人:ジョアン・チェンはどれほど内情を知っているのか? 
この麻雀卓に座っている他の女性の何人がイーと肉体関係を持っているのか? 
女性同士の言葉の戦いを通して、男性の戦争を見てしまう.

従って、彼女たちの表情やしぐさや所作はとても優雅に見えるのだけど、
その言葉の内容を吟味すると、非常に激しい攻防戦を繰り広げている.
確かに、戦争をテーマにした映画なのに、銃弾は一つも描かれいない.

実はこの映画のテーマの一つでもある男性と女性の戦争と、日中戦争の
両方を描いている.よく見ると中国人同士の内戦も描いている事実が見える.
そんな表現を、かたや麻雀シーン、その一方で強烈なベッドシーンの
両方で代用して見せているという巧みさに気が付いてしまう.
 

 

終始、哀愁や切なさが漂う. “抗日”といっても、直接日本軍と戦うではなく、
自国内の裏切り者を暗殺するという、どちらかというと愛国右翼的な行動の
ような顛末だからなのだろう.

列強の帝国主義による中国分割の時代からずっと虐げられる生活が続いて
いたと想像できるだけに、常に被占領の意識があり、そんな意識化での
同国人の中の争い、というのが空しさの一因であろう.

時代に翻弄され、男に翻弄され、そして同国人に殺されていく….
今の時代に生まれていたらもっと幸せな女性として生きていられただろうに.
儚い一人の女性の生き方に切なさを感じた.