映画「緑の夜」…雰囲気だけの疑似韓国の中国作品. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:Green Night 製作年:2023年
製作国:香港 上映時間:92分



ちょっと前に中国国内での巨額の脱税で姿をくらましていた女優ファン・ビンビン.
その復帰後第1作となる本作.作品とは関係ない部分で扱われているが、少しの
興味をもってキネマ旬報シアターで本年度累積27本目の観賞.
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人生を懸けた危険な冒険に挑む2人の女の運命を、「X-MEN:フューチャー&
パスト」、「355」などハリウッド作品でも活躍する中国の人気俳優ファン・

ビンビンの主演で描いたドラマ.

苦難に満ちた過去から逃れるために中国を離れ、韓国で抑圧された生活を
送るジン・シャ.保安検査場での仕事中にミステリアスなオーラを放つ緑色の
髪の女と知り合った彼女は、その出会いを本能的に危険だと感じながらも、
ふとしたことから危険で非合法な闇の世界へと足を踏み入れていく.

自由のため大きな賭けに出るジン・シャをファン・ビンビン、緑色の髪の女を
「ベイビー・ブローカー」のイ・ジュヨンが演じる.
監督は、長編デビュー作「Summer Blur」で世界的に高く評価された
ハン・シュアイ.

以上は《映画.COM》から転載.
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本作クレジット上は中国製、その実は香港製.舞台が韓国ゆえ韓国製と勘違いする
方も居るだろう.非民主を押しつけられている香港のほんの少しの抵抗が見られる
作品.中国本土の検閲もこれ位は見逃してくれたのだろうか?

主人公のジン・シャ:ファン・ビンビンは、韓国に移住した中国人女性.
何かの理由で中国からは飛び出し、配偶者ビザ目当てで結婚した夫とは心が通わず、
暴力によって服従させられている.もしも夫と別れるなら、永住権を得るために
3500万ウォンの金が必要になる.

このジン・シャの状況には、移民と家庭内暴力という2つの社会問題が反映されている.
しかし、この映画が香港の製作であること、さらに、ジン・シャを演じるファン・ビンビン
が中国共産党による脱税の追及によってキャリアと私生活をボロボロにされた人物
であることを念頭に置くと、「社会問題」の意味合いが透けて見えてくる.
 

 

ジン・シャの夫を筆頭に、劇中に登場する男たちのキャラクターは弱い立場の女性に
強権をふるい、逆らう者に対しては「なかったことにしてやるから言うことを聞け」と
頭から威圧する.そんな男たちを中国の象徴とみなし、男性に対して反旗を翻す
女性たちを香港(とくに民主活動家)の象徴とみなすと、中国の支配と弾圧に
対する反体制作品の風合いも見えてくる.

監督はハン・シュアイという女性監督で、長編二作目らしく日本では本作が初めて
の公開. 主役のファン・ビンビンとイ・ジュヨンの組み合わせは魅力的であり、
それらの魅力は十分に発揮されている. 撮影はマティアス・デルボーで、その
映像美は素晴らしく、ソウルの夜を見事に切り取っている.
 

 

全体に暗い、タイトルそのままの、まとわりつくような緑の夜の表現は雰囲気に富む.
中国の圧巻の美人スターであるファン・ビンビンが装飾を一切拒絶した絶望寸前の女
を演じて魅せる.対する緑髪の若き女を韓国のイ・ジュヨンが危なげな感じを上手く
演技してみせる.数年前の「野球少女」で初見したイ・ジュヨンからはえらい成長具合だ.

全体的な映像やヒロイン達の演技から、雰囲気の良さは伝わるのだが、もの足りない
のは、脚本力の部分. 物語がつぎはぎだらけの印象、何が主題かよくわからない.
こういう人間ドラマがベースとなるフィルム・ノワール的な作品においては、いくら
センスがあり技術的に上手でも、作り手の美学なり哲学なりの思想とか主張が
欲しいもの.その部分が欠落している.
 

 

カッコイイ映像とヒロイン達の演技だけに頼っていて薄っぺらく、浅く感じてしまう.
雰囲気だけの作品なのかも知れないという鑑賞後感が強く残ってしまった.
きわめて粗削りな脚本をムードで乗り切ろうとの意図が見えてしまった感がある.

中国独裁政権下にある香港映画の難しさを感じる作品.
かつて優秀な映画産出国であった香港ノワールも遠い追憶の彼方に消えてしまいそう.
せめて韓国の場を借りて、その勢いを借りようとした雰囲気の作品.