映画「サイド・バイ・サイド 隣にいる人」(DVD)…なんとも不思議な癒し系作品. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2023年 製作国:日本 上映時間:130分


作年春の公開時は全く知らなかった作品.レンタル屋の新作棚に並んでいたので
出演者の豪華さに惹かれて借りてきて観た.本年度累積15本目の鑑賞.
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坂口健太郎が主演を務め、不思議な能力で人々を癒す青年が自分自身の過去と
向き合う姿を描いたドラマ.

そこに存在しない「誰かの思い」を見ることができる未山は、その能力を使って
傷ついた人々の心身を癒しながら、恋人で看護師の詩織とその娘・美々と
平穏に暮らしていた.

ある日、自分の近くに謎の男が見えるようになった未山は、その思いをたどり、
遠く離れた東京へやって来る.未山の高校時代の後輩でミュージシャンとして
活躍するその男・草鹿は、未山に対して抱えていた特別な感情を明かし、
さらに未山の元恋人・莉子との間に起きた事件の顛末を語る.
未山は草鹿を介して莉子と再会し、自らの過去と向き合うことになる.

未山の元恋人・莉子を「乃木坂46」卒業後初の映画作品となる齋藤飛鳥、
現在の恋人・詩織を市川実日子、草鹿を浅香航大が演じる.

行定勲が企画・プロデュースを手がけ、「世界の中心で、愛をさけぶ」など
の脚本家・伊藤ちひろがオリジナル脚本と監督を務めた.

以上は《映画.COM》から転載.
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行定組の作品なのだね、雰囲気は良いのだが訴求力が弱いのは伝統芸だ.
行定勲監督とたびたびタッグを組んできた脚本家・伊藤ちひろが、監督デビュー
作「ひとりぼっちじゃない」に続き行定企画・プロデュースでメガホンをとった第2作.

人物も室内も緑豊かな風景も柔らかな光に包まれ、ゆったりとした進行と相まって
環境映像のような印象を受ける.そんな癒し感に満ちた世界を、生成りの衣装を
まとい浮世離れした坂口健太郎が漂うように移動し、疲れたり病んだりした人たち
に寄り添い、手を当て、心と体を楽にしていく.

坂口健太郎が演じるキャラクター・未山は、スピリチュアルな力を持つヒーラー
(癒す人).そこに存在しない“誰かの思い”を見ることができる」と説明されている.
細かいことは気にせずのんびり癒されたい人には満足感が高いだろう.

坂口健太郎は毒のないそのキャラを十二分に生かした役柄に発揮する.
意味なしで破綻しそうな本作のストーリーをかろうじて保っていけるのは
彼による部分が大きいと感じた.
 

 

転じて、好きな市川実日子はその恋人詩織を演じる.ふわふわしたキャラの
未山:坂口の全てを包み込むような包含的な大きさを持つ重要な役柄.
堅実な看護士の勤めをしながら、我が子と未山の面倒をみていく.

客寄せパンダ役の元乃木坂46の齋藤飛鳥はセリフもなく、その容姿ゆえの
お飾り人形役.未山の元カノ役で、どうやら絵画に才能があるような役柄.
現実味を持たせる意味でで、劇中唐突に莉子の妊娠が発覚する.
父親を誰も言及しないので最後まで謎のまま終わる.
 

 

主人公である未山は、「光」の象徴として描かれる.その特徴として、冒頭から
一貫して白い生成りの服装であることや、周囲の人々から頼られていること、
迷子の牛を何度も導いたことなどが挙げられる.

一方、未山の元カノである莉子:齋藤飛鳥は、本作における「闇」の象徴.
その特徴として、未山とは対照的に黒い服装であることや、未山と再会
した際に部屋を真っ黒に塗っていたことなどが挙げられる.

しかし両者は、詩織:市川実日子の家で過ごすうちに、それぞれの役割を
交代する.未山にとっては、詩織が映画の中で見た照明を一緒に探すこと、
莉子にとっては詩織の子、美々:磯村アメリと交流することが転換点となる.

最終的に、莉子は黒以外の服を着るようになり、未山の席は莉子に
取り付けられた新しい照明によって照らされている.といってもその照明が
取り付いた時点に未山はこの世に存在していないようなのだが….

序盤は隣にいる人の存在や登場人物達の所作がホラーな印象だけど、
悩み相談を受けて心を癒す場面はヒューマンドラマみたいな展開を示す.
観ていると、ストーリーはあって無いようなもので、過去の出来事もそこまで
深掘りはされず、理由も曖昧なままで終わってしまう.
 

 

物語より、景色や空気感を楽しむ映画.劇中の景色はとても美しい.
上高地の大正池や安曇野の村の風景を中心に自然や建物の陰影が
特徴的に美しい映像が観られる.撮影担当の大内泰の仕事の成果であろう.

問題は結末のシーン.また迷子の牛を見つけた未山は牛舎に連れて
帰ろうとするが牛を追いかけてカメラのフレームから消えて、牛の鳴き声一つ.
そのままフェイドアウト….牛に蹴られた?先に在った崖から滑落死?

その後、何も無かったように詩織と莉子と美々が新しい照明を嬉々と
取り付けるシーン.席に未山の姿は無い….

終わり方も含めて不思議な雰囲気にまとわり付かれた作品.

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