原題:Vivarium 製作年:2019年 R15+
製作国:ベルギー.デンマーク・アイルランド合作 上映時間:98分
レンタル屋のSF棚から借り出してきたのは、一風変わったテーマのSF.
本年度累積236本目はアイルランド発の不条理なSFドラマ.
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不動産屋に紹介された住宅地から抜け出せなくなったカップルの運命を
描いたサスペンススリラー.
新居を探すトムとジェマのカップルは、ふと足を踏み入れた不動産屋で、
全く同じ家が建ち並ぶ住宅地「Yonder」を紹介される.内見を終えて帰ろう
とすると、すぐ近くにいたはずの不動産屋の姿が見当たらない.
2人で帰路につこうと車を走らせるが、周囲の景色は一向に変わらない.
住宅地から抜け出せなくなり戸惑う彼らのもとに、段ボール箱が届く.
中には誰の子かわからない赤ん坊が入っており、2人は訳も分からない
まま世話をすることに.追い詰められた2人の精神は次第に崩壊していき….
「ソーシャル・ネットワーク」のジェシー・アイゼンバーグと「グリーンルーム」
のイモージェン・プーツが主人公カップルを演じる.
プーツは第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀女優賞を受賞.
以上は《映画.COM》から転載.
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作品冒頭、カッコーが他の鳥の巣に卵を産み、その卵を育てさせる托卵の
シーンが、本作のテーマそのまんまだ.卵が羽化すると、カッコーのヒナは、
本当の鳥のヒナを巣から突き落とし、それを知らない親鳥が、カッコーの
ヒナを自分のヒナと思い込み、せっせと餌を運ぶという、自然の摂理とは
言え哀れなシーンで幕を開ける.
2人のカップルが、新居を購入しようと不動産屋に行くと、キモイ店員に
ゴリ推しされ住宅街“Yonder”に案内されてから、始まる恐怖の展開.
同じ家、同じ雲、模型の様な街には誰もいない.そして風も吹かないし雨も
降りはしない.街から脱出しようとするが、抜け出せないループにはまって
しまう主人公たち.
住宅街の地名“Yonder”には「あそこ、向こう」という意味があり、つまりは
「ここではない場所」を意味する.途中、キレた2人が家を燃やすが翌朝復活
してしまう.或る朝言え前におかれたダンボールに赤ん坊が入っている所から、
これは宇宙人ネタかと観客に思わせる造りは見事.
宇宙人かよくわからない、"なにか"を育てさせられるカップル.
不自然なスピードで育つ点はもちろんのこと、不可解な行動や不気味な思考は
確実に人間のそれではない.
異星人がひどく時間がかかり非効率的な地球侵略という革命のためにしつらえた、
カッコウの托卵のように自らの子を人間の代理親に育てさせる飼育場は
「この世ならざる場所」であり、一度迷い込んだら二度と脱出できない場なのだ.
閉じ込められたカップルにイモージェン・プーツ&ジェシー・アイゼンバーグ.
どちらも慨視感の在る俳優だ.社会性を奪われ、生きることだけが許される拷問
みたいな仮想?空間に、見えない、たどり着かない世界に収監されたかのような
絶望感をうまく演じてみせる.
トム:ジェシー・アイゼンバーグは段々と精神を病んでいく.N0.9の家の庭を
掘り下げる事だけに血道を上げるだけの男になってしまう.
妻のジェマ:イモージェン・プーツは“なにか”である子供への母性愛と、殺して
しまえば解放されるかとの戸惑いに揺れる気持ちに苛まされていく.
そして“なにか”は異常な成長を経て成人化する.
同時にトムは庭を掘り下げた底に…死体を見つける.病んだ精神は破綻して
トムは静かな死の眠りについてしまう.ジェマは半狂乱になり、やはり成人化した
“なにか”に殺されてしまう….
「家を探してただけなのに…」と、内見に行ったら異世界の何者かの子供を
育てる羽目になったカップルのあえない最期.
その後“なにか”は“Yonder”の街を車で出て、最初の不動産屋の主人に
収まる.
セールスマン1人を育成させるためにこれを行なっている?
不条理極まりないシステムなのだが、スッキリとはしないが、割とわかりやすい
結末であり、モヤモヤ感が強いわけでもなく悪くもない.
監督のメッセージ性が強い解りづらい映画の印象もあるが、シチュエーションの
意外性はあったが、それ以外は不気味ではあるものの、難解な設定はなく、
観やすい.アンダーソン監督の近作とはえらい違いと思う.
ポップな画作りも含めてわりと好きな作品.
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