奥多摩・御前山(ごぜんやま)のカタクリ | 本日も一日一歩

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仕事の合間に、街歩きや読書をしています。見たこと、感じたこと、考えたことを少しづつでも綴っていきたいと思います。

 早春を告げるカタクリの花は、今年の関東近郊の里山では、3月下旬で花期が終わりました。
 そんな中で、奥多摩・御前山(ごぜんやま)では1ヶ月遅い4月下旬がカタクリの花期です。
 4月23日(日曜日)、その御前山に行ってきました。
 6時28分、「奥多摩水と緑のふれあい館」に隣接する屋根付きの無料駐車場を出発しました。



 東京都民の水がめ、奥多摩湖(小河内貯水池)です。



 「湖底の故郷」との石碑があります。
 昭和32年、小河内(おごうち)貯水池が完成し、旧小河内村の大部分が湖底に沈みました。



 小河内ダムを見下ろすように聳えるのが御前山(1,405m)です。

 カタクリは惣岳山(そうがくさん)を下った鞍部から御前山への斜面にかけて多く見られます。


 

 

 6時41分、小河内ダムの堰堤上をたどり奥多摩湖の対岸の登山口を通過しました。

 

 

 尾根への取り付きは急登です。

 

 

 7時23分、サス沢山(940m)に着きました。

 

 

 サス沢山山頂からは、奥多摩湖の全景が一望できます。

 中央の最奥にかすかに見えるのは奥秩父主脈の飛龍山(ひりゅうさん、2,077m)です。

 

 

 バイケイソウの群落を通過しました。

 根に毒があります。

 

 

 こちらも毒のあるハシリドコロです。

 新芽がフキノトウに似ていて、食べると錯乱して走り回る、といわれます。

 

 

 毒のある植物から一転、清々しいスミレを見ると心が浄化されるようです。

 

 

 時間が早いせいかしぼんでいますが、標高が上がるとカタクリがぽつぽつとありました。

 

 

 こちらは花弁が反り返っているカタクリです。

 

 

 8時20分、御前山の肩部分にある、惣岳山(そうがくさん、1,348m)を通過しました。

 多摩川の谷をはさんだ北岸にある高水三山にも同名の山がありますが、別の山です。

 

 

 樹林の向こうに、御前山が見えました。

 惣岳山山頂から一旦下って、登り返します。

 

 

 御前山への登り斜面のあちこちでカタクリが咲いています。

 山を愛した劇作家の故・田中澄江氏は、1980年発行の「花の百名山」で御前山のカタクリについて次のように書いています。

 ・・・びっくりしたり、よろこんだりしたのは、まだ芽吹きも固い林間の地表をびっしりと埋め、薄紅に咲きさかるカタクリであった。

 ・・・有料道路開通を嘆くひともいるけれど、山々はそれ以上に深く大きく、これだけのカタクリの大群落に、何千年昔からの面影が生きつづけているのだとうれしかった。

 

 

 しかし田中澄江氏が後に書いた「新・花の百名山」では、栃木・三毳山(みかもやま)のカタクリの項で、次のように嘆いています。

 十年前に、カタクリは奥多摩の御前山と『花の百名山』に書いたが、今そのカタクリは、見るも無残に減ってしまったという。

 一部の人からの、「田中が自著で紹介したせいで、盗掘がはびこってしまった」との心ない批判を田中は受けたことでしょう。

 

 

 令和の今、御前山のカタクリは、昔ほどではありませんが、何とか生き残っています。

 

 

 カタクリは、一日のうち陽の当たる時間帯が花の見頃で、朝、早過ぎると花弁がまだ開いていないようです。

 

 

 ヒトリシズカ(一人静)です。

 可憐な花穂を、まだ大事に葉が包んでいます。

 静御前(源義経の妾)が一人で白拍子を舞い踊る姿のようだと、花の名になったそうです。

 花言葉は「隠された美」です。

 

 

 8時45分、御前山(1,405m)山頂に着きました。

 広々とした山頂で、ベンチもたくさん置かれています。

 

 

 山頂標識は、御影石に英語併記で山名を刻んだ、高さ2m以上ある立派なものです。

 雲取山や奥多摩三山(大岳山、御前山、三頭山)などの奥多摩の著名な山には、近年になって東京都がこうした巨大な御影石の山頂標識を設置したようです。

 たぶんヘリコプターで山頂まで運んで、深い穴を掘り台座を埋めて設置したんでしょうね。

 ご立派過ぎる標識にやや違和感を否めませんが、都の財政力が示されているようでもあります。

 

 

 かつての御前山山頂は樹林のため展望のない山でしたが、現在は北東側が伐採されていて、雄大な展望を楽しめます。

 最奥に見える雲取山(2,017m)と、そこから奥多摩駅方面へ南東に延びる長い尾根(石尾根)が一望できます。

 中央は、鷹ノ巣山(1,736m)です。

 

 

 石尾根上、手前に大きく見えるのは六ツ石山(むついしやま、1,478m)。

 その奥には、奥多摩の最深部、都県境の長沢背稜(ながさわはいりょう)上の山々が見えます。

 酉谷山(とりだにやま)、天目山(三ツドッケ)、さらに蕎麦粒山(そばつぶやま)へと続いています。

 

 

 山頂に、「ひとめでわかるカタクリの一生」という解説図が設置されていました。

 

 

 御前山山頂で昼食休憩の後、下山に移りました。

 下山路にもカタクリの保護の看板が出ています。

 

 

 登山者が立ち入れない保存ネットの内側には、遠目にたくさんのカタクリの花が見えます。

 登山路すぐ脇にも優美に花弁が反り返ったカタクリがありました。

 

 

 登山路の階段途中にも咲いていました。

 

 

 

 三毳山のように一面見渡す限りの群生、とは言えませんが、こうしてひとつづつ見て歩くのも楽しいです。

 

 

 一つひとつに個性があっておもしろいです。

 

 

 もう少し遅い時間に来れば、反り返るのでしょうね。

 カタクリの花言葉は、「初恋」です。

 

 

 9時41分、御前山避難小屋を通過しました。

 お手洗いと水場もあります。

 

 

 肩をいからせて山頂が突起状の山、大岳山(おおだけさん、1,266m)が東側に見えました。

 大岳山から左に伸びる稜線の先にあるのは山岳信仰の聖地、御岳山(みたけさん、929m)です。

 

 

 下山途中でこの日一番の優美な姿のカタクリに会えました。

 

 

 子どもの頃、風邪をひいて熱を出したときは、母がよくカタクリといってとろみのある甘いものを食べさせてくれました。

 あれは本物のカタクリ粉ではなく、ジャガイモ粉だったのでしょうか。

 

 

 わが国では、カタクリは古代の昔からこんな優美な姿を人々に見せていたはずなのに、カタクリを詠んだ和歌は少ないようです。

 万葉集では、カタクリは大伴家持が越中で詠んだ一首しかない、と万葉学者の故・犬養孝先生が言っていました。

 もののふの 八十(やそ)おとめらが 汲(く)みまがふ

 寺井(てらゐ)の上の かたかごの花

     巻19-4143
 かたかご(堅香子)は、カタクリのことです。

 

 

 きみたちは、もう十分に咲いて来年の春までお休みに入るのかな。

 

 

 湧水の広場を通過しました。

 

 

 まだまだあります。

 

 

 下山路もひとつひとつ見ながら下りました。

 

 

 ハート形の葉を持つカツラ(桂)の巨木がありました。

 祖母が、実家の裏にあったカツラの葉を細かく砕いて仏壇用の抹香を作っていたことを思い出しました。

 

 

 ニリンソウです。

 第2花がつぼみで見えます。

 

 

 フジの花のこの爽やかな薄紫、藤色は芭蕉の句のとおり疲れた心身を癒してくれます。

 草臥(くたぶ)れて

 宿借るころや

 藤の花

 

 

 11時49分、境橋バス停に着きました。

 

 

 橋の下には、多摩川と両岸の新緑がまぶしいです。

 

 

 先ほど、山頂を踏んできた御前山の頭が見えました。

 

 

 約30分待って西東京バスに乗り、奥多摩湖に戻りました。

 

 

 この日の歩行距離 10.9 km 上り / 下り 1029 / 1200 m