とんと昔あったずま。
あるところに爺様と娘が住んでいた。
ある日のこと、山に山菜を採りに行った娘が帰ってこないまま行方不明になった。
何年も諦めきれないまま、爺様はことあるごとに山に出かけ娘を探した。
ある年、山奥の、そのまたきたことのない山奥まで足をのばして、疲れ果て湧き水のところで休んでいると、近くに子どもがいた。ふと子どもの顔を見ると、半分が人間で、あとの半分が鬼の顔で、頭には鬼の角が一本生えていた。
仰天しておそるおそるその子どもの顔を見ると、その半分の人間の顔がいなくなった娘にそっくりであった。
爺様はその片角の子どもの後をつけていったら、片角の子は山のように大きな岩の陰に来て、
「おっかあ、おっかあ、いまきた」と叫んだ。
「どこにいって遊んできた?」とその母親らしきものの声がする。
はたしてその声はいなくなった娘、おさよの声だ。
爺様はたまらず
「おさよ、おさよでねえか」
と泣き叫び飛び出した。
おさよも、望外の爺様との再会に喜び飛び出し、二人でひしと抱き合い感激の涙を流していると、片角子が
「おっかあ、んじゃあ、この人はおれの爺様か」と聞いた。
「んだ、んだ、おれのおとっつぁんで、お前の爺様だ」それを聞いた片角子は
「おれの爺様」と抱きついた。
爺様は恐れも忘れ、
「おれのめんごい孫だ」としかと抱きしめた。
そこへおっきな赤鬼が帰ってきた足音がする。
片角子は俺の爺様が食われると思い、がらがら(急いで)爺様の手を引いて岩穴の奥へ連れて行って隠した。
赤鬼は帰って囲炉裏端で胡坐をかくなり、
「おお、なんだか人の匂いがする、お前だ人ば隠してねえか」
と聞いた。片角子は
「おとっつぁん、俺の爺様ば食わないでけろ」としぶしぶ連れてくると、
赤鬼は爺様をギョロっと睨みつけ、
「おっかあ、酒を持ってこい」と呼ばわり、
震える爺様に大きな杯を持たせ、そこになみなみと酒を注ぐと、
「その酒を飲み干せ、そんで、俺と縄ない(藁を編んで縄にすること)の競争をしろ。勝ったら爺様を食わない」
と、縄ないの競争を無理強いしてきた。
赤鬼の縄ないは早く、爺様の十倍の速さで縄を編んでいく。
だが、片角子は人間の知恵と鬼の力を持ち合わせた聡い子どもで、爺様が負けないよう、赤鬼の編んだ縄を爺様の編んだ縄の先に結んでやった。
「どれ、俺の編んだほうが長いべ、俺の勝ちだ」と赤鬼が言うと、
「いや、おとっつぁんと爺様は同じ長さだ」と差し出す。
赤鬼は不思議がって、
「おれのほうが早いと思ったけどな、どれ、次は豆の早食い競争だ」
と豆の早食いの競争をやらせようとする。
娘は機転を働かせて、鬼の食う豆に豆粒の大きさの小石をいっぱい混ぜてやった。
「今日の豆はよくない豆だ、ずいぶんと固い豆だ」とブツブツ言いながら大きな手でバクバク食った。そのうち、
「いてえ、いてえ、歯が痛くてかなわねえ」
と山奥の沼に水を飲みに行った。
その間に、爺様と娘、片角子の3人は、ガラガラ爺様の家に逃げ帰った。
まもなく赤鬼が追いかけてきて遠くから、
「うおー、うおー、爺様を出せ、おっかあを出せ」と叫んでいるのが聞こえる。
「このままでは、爺様もおっかあも赤鬼のおとっつぁんに食われてしまう。おっかあ、おれは人間としても生きられねえし、鬼としても生きていかれない。俺を半分に切り裂いて、鬼のほうを切り刻んで串に刺して、戸の口にさしてけろ」
爺様と娘は仰天して、
「そんなむごいことはできねえ」と二人で片角子の左右の手を携えた。
すると、不思議なことに爺様も娘も握った手に力も込めていないのに、片角子の体は、ビリビリと半分に裂けてしまった。
仕方なく片角子の遺言どおり裂けた半分の鬼の顔を串に刺して戸の口に刺すと、
それを見た赤鬼は、
「人間たあ、恐ろしいことをするものだ、人間というのは、何をするわからねえ」
と元来た山奥へガラガラ逃げ帰っていった。
それ以来、2月3日の節分には、鬼の嫌いな豆を撒いて鬼を追い出し、ヒイラギの枝に鰯の頭ば刺して戸の口にさしておくと、鬼が寄り付かないと昔からの言い伝えだ。
どぅーびんと。
節分縁起話なんですが、片角子の境遇がせつなすぎる話です。「人間としても鬼としても生きられない」と言って二つに裂ける節は怖いながらも哀れです。村山地方に伝わる民話です。