昔、秋田の殿様が、久保田城にお城を築こうとしたとき、殿様が寝ている夢枕に、白髪の立派な老人が現れて、
「私は、この久保田山に長年いついている白狐ですが、城を築くために私の家が壊されてしまいます。
それは仕方ないとしても、せめて一坪の土地だけでも、私に分けてください。
もし私の願いがかなえられるなら、私は人間の姿になって、飛脚となってお殿様のために働きますから」
と言った。
それを聞いたお殿様は、
「江戸の情勢を知るのに役に立つだろう」
と、白狐に久保田山のてっぺんに、十坪ほどの土地を分け与えた。
喜んだ白狐は、早速若い飛脚となって、秋田と江戸の200里を風の如く、南へ北へ走り、たったの六日で往復して、殿様のために働いたそうな。
江戸の幕府では、江戸城の秘密が秋田に筒抜けなのを不信に思い、隠密を放って与次郎の身辺を探らせた。
隠密たちは、東根六田村の宿屋に時折泊まる若い飛脚が与次郎であることをつきとめ、宿屋の主、門右ヱ門を仲間に引き入れて、与次郎を捕まえる相談をしていた。
その宿屋には、お花という年頃の娘がいて、与次郎に思いを寄せていた。ある日、思い切ってお花が与次郎に思いを伝えてみると、
「私は訳あってこのような人間の姿をしていますが、実は白狐なのです」
と身の上を明かして、かたくなにお花の恋情を拒んだが、お花は諦められなかった。
そして、どういった訳か、与次郎が人でないことが、隠密たちにも知れてしまった。
隠密たちは、狩人の谷蔵を仲間に引き入れ、狐の好きなネズミのてんぷらに毒を入れて、与次郎を殺す算段をしておった。
隠密たちの密談を盗み聞きしたお花は、偶然やってきた与次郎に隠密たちが与次郎を殺そうとしていることを告げ、与次郎を逃がしてやった。
月夜の羽州街道の松並木には、狐の大好きなネズミのてんぷらがあちこちにしかけてあり、狐にはたまらない匂いがプンプン漂っている。
与次郎は我慢して通り過ぎようとしたが、
「待てよ、私のために、他の仲間が犠牲になったら」
と、毒入りてんぷらを取り除こうとしていたところ、谷蔵が放った矢が飛んできて、左の目に「ぶっすり」と刺さった。
与次郎はいけどりにされ、哀れにも、皮を剥がされてしまった。
その夜、隠密、門右ヱ門、谷蔵たちは与次郎の肉を煮て、酒盛りをした。
お花は、涙ながらに与次郎の骨を集めてねんごろに弔ってやると、どこぞへと姿を消し、六田村に戻ることはなかった。
与次郎の肉を食べた、隠密や谷蔵たちは、もだえ苦しみ、狂い死にしたそうな。
そして、六田村にも悪い病が流行ったり、大火事になったりと次々に悪いことが起き、
誰からともなく、
「これは、与次郎のたたりに違いない」
という話が広まっていった。
六田村の人々は羽州街道沿いに与次郎を祀る祠を建てて「与次郎稲荷」と呼び、今も白狐の霊を慰めているそうです。
東根に伝わる民話です。与次郎狐がかっこいいですね。