Snow white ~さよなら 先生 -3ページ目

Snow white ~さよなら 先生

はじめまして 日記という形で、香川先生との出逢いから別れの3年半を回想させていただきます。 

天国のあっちゃんへ



昨日

夏でもないのに

スコールみたいな通り雨が降ったよ



何年たっても

うちはこういう雨が大きらいで

それは あの夏の日に

同じようなどしゃ降りの通り雨が

あの街を 覆うように降ったせい



いつまでたっても 

あの 地面をたたきつけるような雨音を聞くと

立っていられなくなるのは

雨がやんだあと すぐに

うちにかかってきた 1本の電話のことを

まだ記憶の中から消し去ることができないから


事故は

雨や 水たまりに起因するものではなかったけれど

それでも

うちにとっては セットで思い出されてしまうから

これからの季節は ちょっと苦手なの




ねえ あっちゃん

あなたはきっと

今でもこんなうちのことを

何処かで叱っているのかもしれないね

あなた自身が とても前向きで

ぐちぐち後ろ向きな姿勢が大きらいだったから



もともと雨が好きじゃなくて

その理由を「靴が濡れてぐずぐずになるから」と

うちが話した時に

あなたは

「なんや そんなことが気になるんかぁ」

そう言って笑い飛ばしたね。

「先生! 笑うなんて失礼じゃ

女の子は靴が濡れるの 普通嫌じゃと思うけど?」


高校生だった私は 

朝の登校中に大雨に遭うと それだけでUターンして

うちに帰りたくなったりしたから

いつまでも笑っている先生に

頬をふくらませて言い返したんだったね

あなたは私のふくれっ面を見て 内心

「しまった 俺地雷踏んだみたいや」

そう思ったって あとで教えてくれたね




そんな雨嫌いなうちが

通り雨の降った日に 

大好きなあなたを

神様に 連れていかれてしまったから

もっともっと 雨が大きらいになった

特に

通り雨の さも何もなかったかのような

降ったあとが 一番きらい

あなたが運ばれた病院に駆けつけた時

空はもう 嘘のように晴れわたっていて

それは

雨なんて 降ったことすら記憶に残らないほどに




「カナ いつまでもそれはあかんで

雨もおてんとさんも 必要なもんやからなぁ・・・」


あなたはそう思うのかもしれないけど

うちは今でもずっと 通り雨がきらい

今でもずっと あなたを愛しているのと同じで


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


少し

いえ かなりネガティブな内容の記事でした。

梅雨入りはまだなはずですが

最近よく 急に雨が降ります。

週末に行われていたプロ野球

カープVSソフトバンクホークスが

珍しくも 2戦連続降雨コールドゲームとなりました。

初戦はカープ 2戦目はホークスの勝ちでした。

ホークスのバッターは 皆さんよくバットが振れていまして

(キャッチャーの田上選手のホームラン 140macha-*ですって)

この勢いを保ったまま

今日から 阪神タイガースの聖地

甲子園球場 甲子園 にのりこんできます。

タイガース打線も元気になってきたとはいえ

正直言うと かなり怖く感じています。

先発ピッチャーは 何とか踏ん張ってほしいです。

誰だろうと思い 色々調べていましたら

今日は 能見篤史投手のようです。

同じ名前の虎党さんである 

香川先生にお願いしておきましたから

なんとか粘って 杉内投手と投げあってほしいと思います。


がんばれがんばれ 猛虎☆の14番 

能 見 篤 史 !!

まだまだここから 阪神タイガース阪神タイガース阪神タイガース


ネガティブな記事でいっぱいなのも

どうかと思いましたので

付け足したものが また阪神ネタです。

父と先生が 向こうの世界で

ビール片手に 苦笑いしていそうです・・・




先生がぽろっとこぼしたこと

私の通った母校であり

今も先生が勤務している〇高での

先生の同僚である 高橋先生

私の記憶の中には あまりなかったのですが

この先生が 

私のことを好きだったらしいという話 です。

私はまだ半信半疑でいました。


そして

先生はその高橋先生に

『淫行教師』と言われたとのこと

それは 教え子だった私が

卒業して すぐにつきあいだしたせいでしょう。

それにしても この言葉はあんまりです。

恋人同士になるのを 

先生は 私が卒業するまで待ったし

きちんと 将来のことを考えている旨を

私の両親に挨拶に来た時


真摯に話してくれました。

なのに 淫行教師なんてあんまりです。

その 自分の中で記憶が薄い人に対して

怒りを覚えていました。


「何それ! 淫行教師ってあんまりじゃろ!!」

思わず声が大きくなっていることに気づいたのは

周りの人が 一斉に私を見ていたからでした。

「カナ 声がでかいって・・・」

先生が 少し困ったような口調で私を諌めました。

「あっ・・・  ごめんなさい

でも あんまりじゃ

あっちゃんのどこが淫行教師なんよ。」


ちいさな声でそう言うと 先生がかぶりをふりました。

「カナ 俺のことはええんや

世間一般で言うたら そう言われてもしゃあないんや

教え子を好きになるだけならともかく

俺は カナが在学中に気持ちを伝えた

これは やったらあかんことやしな。」


建前ではご法度なことぐらい 私にもわかります。

でも 人の気持ちは

そんなに測ったようにコントロールできません。

「なぁ あっちゃん? 

・・・そんなん いつ言われたん?」


訊いてみましたが 先生は答えてくれません。

聞こえなかったのかなと思い もう一回訊いてみたけど

先生は 何も答えてくれませんでした。

「カナは 俺のことはなんも気にせんでええから

高橋ひとりに嫌われても 俺はこたえへん

あ・・・ 俺の場合風紀担当にも嫌われてるけどな


あの学校で 

生徒を・・・ 抑えつけん人間は嫌がられるんや

しゃあないわ。」


私が卒業した 〇高は

色々な規則で生徒を縛りつける主義の学校です。

少しでも生徒をのびのびさせてやりたいと思い

常々規則の緩和を訴えて

まっすぐに勝負しようとする 香川先生のような人は

あの学校の管理職の立場からすると

鬱陶しいし 邪魔な存在なのかもしれません。

「そやから 気にするな

・・・そろそろ 来るんちゃうか?」


先生が腕時計に視線をやるのにつられて

私も 自分の時計に目をやりました。

先生が言うとおりでした。

あと5分足らずで 東京始発の新幹線が着きます。

「うちは あっちゃんのことそんな風には絶対思ってない

ううん うちだけじゃのうて 

パパもママも あっちゃんのことは

ちゃんとした立派な先生じゃって思ってる!」


また声が大きくなってしまいました。

「カナ ありがとうな

うれしいよ。」


再び抱き寄せられ キスをされました。

短いキスだけど

今日 何度目かわからないほどのキスだけど

私にとっては 幸せで満たされた

甘い甘いキスでした。

また 泣きそうになりますがこらえます。

無理に我慢しようとすると 却って涙が溢れそうになりますが

それも無理やりに我慢しようとしていると

先生が 涙を手でぬぐってきました。

「泣き虫やのに 強がりなとこあるなぁ

制服着てたころから カナはずっとそうやった。」


言われた通りです。

昔から 先生には泣き顔を見られてきました。

よく接するようになったはじめの頃はともかく

こうして 顔につたう涙をぬぐわれました。

「・・・俺は 

カナとこうして 一緒におれるんがもちろんうれしいけど

離れて暮らしとっても

おんなじ空の下で お互いのこと想ってる

そう思えたら それだけでもうれしい

そやから 他の奴に何言われたって全然平気や。」


まっすぐに私の目を見ながら話す

先生の目を 私もじっと見つめます。

「それに もうちょっと我慢したら

カナのこと 嫁さんにできるんやし

嫌味ひとつでクシュンとなる俺と違うわ。」


私が卒業するまでは まだあと3年近くあります。

でも 私の未来予想図の中にも

しっかりと 先生と築く将来がありました。

それは 私の中に描かれていて

ちいさな女の子と 男の子を囲んで


私たちふたりがいる・・・

私そっくりのおませな女の子と

先生そっくりの やんちゃな男の子です。

先生は たくさん子どもを欲しがっていたから

私のおなかの中には 新しい命が宿っていて

その誕生を 心待ちにしているんだろう

そんな未来図ができあがっているのです。

「なぁ カナ

今度間違いなく逢える時は たぶん夏休みやろうけど

それまでにも できたら俺またこっちに来るからな。」


先生は これから何かと忙しくなるのに

今日でさえ 仕事がかなり残っているところを

無理やり予定をあけて来たというのに

そんなこと 難しいと思います。



到着を知らせるアナウンスがあったと思ったら

向こうで 新幹線のヘッドライトが光ってみえました。

それは減速しているとはいえ

どんどんこっちに近づいてきます。

警報音が鳴ります。

何度も聞いたことのある音なのに

いつまで経っても この音が好きになれないのは

いつも先生を連れて行ってしまうせいでしょう。

「カナ

誰になんて言われても

気持ちが揺るぐことはないから

俺 あほやからついぽろっと話してしもたけど

いらん心配はせんでええよ。」


「あっちゃん  うち・・・」

車両が ほとんど止まりかかって

すでに列になって並んでいる人たちは

もう 乗り込む準備が整っているのでしょう。

だけど

そんなことそっちのけで ふたりだけの世界に入っているのは

きっと私たちだけではないはずです。

先生に きちんと自分の思いを伝えたいのに

胸がいっぱいで うまく言葉になりません。


「・・・心配させたないから

いらん心配 せんでええから

カナはこっちで 思いっきりいろんなこと勉強して欲しい

今のままのカナも 俺は大好きやけど

今よりもっともっと 懐を深うにして成長して

そやけど よけいに人気が出たら複雑やしなぁ・・・」


照れくさそうに言う先生の表情を見ていると

愛しい気持ちが ぐっとこみあげてきます。

先生に抱きついて ぎゅっとしがみついた私に

またそっと 優しいキスをしたあと

私の耳元で ちいさくささやきました。

「今日1日 いっぱいいろんなカナを見たよ

心のアルバムに貼りきれんぐらいに・・・

カナ   カナ

愛してる・・・」


すっと身を離したと思ったら

それはそれは 驚くほど素早く

私に背中を見せ 新幹線に乗り込んでゆきました。




「あっ・・・」
と思ったのも一瞬で

車両はゆっくりと動き出し

やがて ホームのはるかかなたで

ちいさなちいさな『点』になるのでした。


数時間前まで 私の部屋で

一緒に濃密な時間を過ごした あの人を乗せて・・・

日曜日の夜の 新大阪駅 

先生があの街に帰るために使う 下りの新幹線ホームには

いつものように たくさんの人がいました。

どこかに単身赴任をしていて そこに戻るように見える男性

大阪に遊びに来ていたのでしょうか

たくさんの紙袋をさげた女の子達

そして 香川先生のように

恋人に逢いに来ていたとおぼしき人達は

いつもの私たちと同じように 別れを惜しんでいます。

それぞれが思い思いに抱く 慌ただしさと

到着を知らせるアナウンスや警報音が

ホームにいる私たちの心を なんとなく焦らせます。


「無理にでも 来てよかった・・・」

私の前に立つ先生が ぼそっと話し始めました。

「えっ?」

「家に着いたらもう日付変わってるやろうけど

まだまだ 寝んとやらなあかんことがあって

どうかなぁって思ってんけど

カナのとこには 訳のわからん荷物が届くし

絶対このままにはしとけんから 

正直言うと 俺のなかで強引に都合つけて来たんや。」


なんとなく そんな気はしていました。

3年生のクラス担任と 就職指導の役をしていれば

もうこの時期からは どんどん忙しくなってくるはずですから。

私は うしろから先生の手を握りました。

いつもは 先生が大きな手で私の手を包みこんでくれるのですが

今は私が包みこんであげたくて

自分の両手で 先生の右手を囲むように握ります。

「・・・あっちゃん

忙しいのに無理してきてくれて ありがとう

うちは平気なふりしてたけど 

本当は不安じゃったし 心細かった

でも あっちゃんの顔見たらそんな気持ちどっかいったよ

すごく安心できたんは あっちゃんに逢えたから・・・

本当に ありがとう

うち すごくうれしかったよ。」


先生の 大きな背中にもたれながら話します。

「カナ 泣いたりしてないよな

鼻水すりつけるんは無しやで・・・」


冗談っぽい口調で 先生が笑いながら話しています。

振り返ってみたら

私は先生の前で結構泣くことが多かったから

スーツの上着にもたれて泣いたこともあります。

(・・・ということは そうですね

過去にそのようなことがあったと思われます)

「ごめんなさい・・・」

泣いてしまうときは 正直そういうことに思いが至らなくて

自分が今までにした粗相を思うと

ごめんなさいとしか言いようがありませんでした。

「嘘々 カナ 冗談やって

そんなに あやまらんでええから。」


先生が くるっと私の方に振り返りました。

優しい笑顔を見せてくれる先生です。

今日は ベンチに空きがないので

私たちは

ホームの端っこで 立っったまま電車を待っていました。

「今日は 並ばんでええの?(並ばなくていいの?)」

自由席で帰るなら そろそろ並んでおいた方が

座れる可能性が高いような気がします。

「大丈夫!

今日はな 結構人が多い気がしたし

指定席も一緒に買うてるんや

そやから ぎりぎりのぎりまでこうしておれるよ。」


先生が 笑いながら答えました。

それなら 先生が乗る新幹線が到着するまで

こうしていられます。

「あっちゃんの席は何号車?」

先生が 切符を見せてくれました。

何気に 上の方にある表示を見ていた先生が

「あ~~」っと声をあげました。

「どうしたん?」

「逆や逆  もっと向こうの方やったわ。」

どうやら 先生の買った座席のある車両は

この辺で待っていたのではダメみたいでした。

「カナ ゴメン

もうちょっとあっち行ってええか?」


手を差しのべられたので 左手を差し出すと

先生にぎゅっと握られました。

「うん ええよ

いくら指定席でも そこの近くで待った方がええね。」


先生の背中を見ながら 人ごみをぬって移動します。

「あ 弁当買お!」

思い出したように先生が言います。

部屋を出る前に おうどんを1杯食べたのですが

きっとそれはもう きれいに消化されてしまったのでしょう。

途中にある売店で 先生が立ち止まりました。

「牛めし弁当・・・ は もう売り切れかぁ

しゃあないわなぁ もう遅い時間やし

そしたら 何にしよ

あっ かつ丼 これがええな かつ丼!

すみません このかつ丼弁当くださいっ!」


そんなに連呼しなくても かつ丼弁当は逃げたりしません。

おかしくて私が笑っていると

売店のおばさんも同じことを言いました。

「お兄さん 大丈夫やから

かつ丼は逃げぇへんから安心しぃ

お茶はいらん?」

そう言われて 先生が缶のお茶を一本追加しました。

「ひとり分でええの?」

そう訊かれて 先生が答えます。

「乗るの 俺だけやからええんです。」

その言葉に 胸がしめつけられそうになるのがわかりました。

わかりきったことなのに

もう 何回も経験していることなのに

私の心は 慣れるということを知らないのでした。

「日曜日 この時間帯のホームは

お兄さんたちみたいなん 多いね

がんばりや・・・」

何をがんばるのかは具体的にはわかりませんでしたが

先生が励まされたというのはわかりました。

お弁当を買い終わって ホームを移動していると

ほんの少しの距離内に

おばさんが言っていた通り 別れを惜しむカップルがたくさんいました。

いつも先生が帰るのは もっと早い時間だったので

こうまで 同じような立場のカップルを

たくさん見かけることはなかったのですが

この時間に帰る人が多いのでしょう

以前 私たちがここでしたように

抱きあったり キスを交わすカップルもいます。

「自分がしてる時は 目に入らんけど

こうして 人さまのを見てたら

なんかこう 恥ずかしいな。」


同じことを 私も思いました。

「そうじゃね・・・」

でも 別れる間際とかだと

人目など気にならなくなります。

確かにみっともないのかもしれませんが

この人と離れたくない もっと一緒にいたい

その気持ちだけしかなくて・・・

「あと20分かぁ・・・」

あと たった20分です。

20分経ったら 先生の乗る新幹線が到着して

私は 先生をお見送りしなければなりません。

目の前に 先生の背中があります。

大きくてひろくてあたたかい

私の大好きな背中です。

うしろから そっともたれかかります。

「カナ どうしたん?」

もたれかかって 腕を前に回してきたので

先生は どうしたんだろうと思ったのでしょう。

「・・・あっちゃんの背中 ひろくておっきいね。」

「はは・・・ 俺 図体でかいんだけが取り柄やからなぁ

野球部で からだ鍛えられたせいで

特に上半身は 人よりごついわな。」


笑いながら 先生が言います。

それだけが取り柄だなんて そんなことはありません。


「そんなことないよ

あっちゃんは 頭もええしやさしいし

うちにとっては スーパーマンじゃ。」


そう言うと 先生がまたくすっと笑いました。

「・・・スーパーマンかぁ

そやな 男は誰でもそうありたいもんや

好きな女のことは 自分がなんでも守るんやから

そうありたいなぁ。」


真後ろにいるせいで 先生の表情がわからないのですが

言ったあと 髪の毛をしきりにさわっている様子から

きっと恥ずかしくて 顔は赤くなっているのでしょう。

「ありがとうね

今日 いっぱい一緒におれて

うちは 本当にうれしかった・・・」

「カナ・・・」

先生が 振り向こうとしたのを制しました。

「ううん このままで聞いて

あっちゃんの顔みたら 恥ずかしいから

このままで言わせて・・・」


「うん。」

ぎゅっと 先生のからだにしがみつきました。

「あっちゃんは もてるから

うち 不安で・・・

『カナだけ』って 言ってくれて

あっちゃんのこと 信じてるはずじゃのに

ひとりでこっちにいたら

色々自分で考えてしまうん

でも あっちゃんと逢えたら

そんな気持ちがどっかいって

不安なんか どこいったんかわからんぐらい幸せで・・・」


途中で 言葉が詰まってしまいました。

「カナ・・・

俺やっておんなじやから

はたちのカナには 俺よりもっと合う奴がおるんと違うか って

夜 自分の部屋でひとりでおったら

考えてしまうことがあって

もし カナが俺以外の誰かを好きになったら

俺は さっさと身をひかなあかんな って・・・」


「なんで そんなこと・・・」

胸が詰まって うまく言葉が出ません。

「・・・俺のこともてるなんて言うけど

カナは 自分であまり自覚ないかもしれんけど

高校であれだけ人気があるほどやし

大学生になんかなったら なぁ・・・」


こっちにきてからは 誰からも告白などされていません。

そのことを言うと 先生が向き直ってきました。

まわれ右をしたあと すぐに抱きしめられました。

「それは カナに彼氏がおるってことを

皆 知ってるからや

知らんかったら 絶対男がほっとかんよ

たか・・・ 高橋もそうやった・・・」


「高橋? 誰のこと?」

「あっ・・・」

先生の顔を見あげると ちょっと困った顔をしています。

「教えて・・・」

黙ったままの先生でしたが しばらくして口を開きました。

「〇高で 英語担当してる高橋先生のことや。」

私は教えてもらったことがないので

すぐにはわかりませんでしたが

記憶の糸をたどりながら 必死で思い出そうとしました。

たしか 香川先生と同じ年代ぐらいに見える

英語の先生がいたのを思い出しました。

「うちは教えてもらったことないけど

背の高い ひょろっとした先生?」


先生がうなずいています。

あの先生がどうしたというのでしょうか?

「高橋先生がどうかしたん?

あっちゃん 高橋先生となにかあったん?」


私が訊くと 先生が私の頬に手を当ててきました。

「カナの ニブちん。」

ニブちんって 鈍いやつって言うことでしょうか・・・

「なんでうちがニブちんなん?

なんで・・・」


もう一回 ぎゅうっと抱きしめられて

それ以上しゃべれなくなってしまいました。

「アイツはカナのこと好きやったんや

俺は カナのこと好きやったからわかるんや

カナが グラウンドで体育の授業受けてる時や

移動教室や朝礼の時に

俺が見てたら アイツもようカナのこと見てた。」


そんなの 私を見ているとは限りません。

そう言うと 先生はそれだけではないと言い返します。

「体育祭の時の カナの写真を

いっぱい撮って 自分でアルバム作ってたしな

太ももやへそがばっちり写った チアリーダーの格好・・・」


「え~!」

そんなこともこんなことも みんな初耳です。

「そ・・・ そんなんなんで高橋先生のじゃってわかるんよ

それに なんであっちゃんが見つけたんよ?」


「どいつもこいつもマヌケばっかりや

あんなもん 机の下に落としよってからに

アイツ ミッフィーが好きで

色々なもん ミッフィーで揃えてんの

ご丁寧にアルバムまでうさぎちゃんや!」


私の思っている高橋先生は 繊細そうな印象がありました。

どちらかというと豪放な香川先生には 絶対にそういう趣向はありません。

「ミッフィー!?」

「そうや 他の先生に訊かれとったことがあって

『高橋先生 このうさちゃんお好きなんですねぇ』って

そしたらうれしそうになんか言うとったわ。」


「なあ あっちゃん 

高橋先生って 今何年担当なん?」


同じ3年担当だったら ちょっとややこしそうです。

「ああ 今年は1年の担当や

俺とは ほとんど関わることはない

っちゅうか 俺めちゃ嫌われてる。」


それって 先生と私がつきあっているせい・・・ なのでしょう。


「俺 あいつに

・・・『淫行教師』って言われたことあんねん。」


先生の口から 生々しい言葉が出たので

驚いた私でした。



長くなるので いったん切ることにします。

天国のあっちゃんへ


5月も半分が過ぎたというのに
最近はどうも気温があがらないような気がするけれど
それに比例するかのように
あなたが大好きだった阪神タイガース阪神タイガース
どうにも元気がなくて
見ていてせつなくなっちゃうよ。

きっと今頃あなたも やきもきしているんじゃないかな?

今週末からチームは
遠征に出て 東京ヤクルトスワローズヤクルトとの連戦に臨んでる。

金曜日はね
うちが最近このブログの題材に取り上げている

左腕の 能見篤史投手が先発だったの。

「カナ ずいぶんこのピッチャーを力入れて応援してんなぁ
ように見たら  いや ちょっと見てもこいつええ男やな

カナは俺のことも好きになったし なかなか面食いやなぁ
あはは・・・」

そんな風にあなたは笑うのかもしれないけど

いっとくけど

うちがあなたに惹かれたのは 顔でじゃないからね。
あなたの優しい心と 大きくて広い背中
スーツとネクタイが映える がっちりしたからだ
顔ね・・・  確かにあなたは三枚目じゃあなかったけれど
うちは 自分のこと面食いとは思ってないのよ。
(こんなにまで書いたら あなたはへこんじゃうかな?)

話をもとに戻して
能見投手 すごくカッコよかったのよ。
確かに端正なマスクっていうの? 
いわゆる「男前」顔だけど
そういうのじゃなくって
打者に向かっていく『攻め』のピッチングがね
とてもカッコよくて 痺れそうになる場面が
何回もあったわ。
去年までは ピンチになるとよく打たれていたの。
今年は ピンチになっても向かっていってるのがよくわかるから
すごく成長したなぁって・・・


でもここ数試合 打線の援護が全然なくて
試合の終盤になると 疲れがでてきてしまうのかな?

決勝点を奪われることが多いのだけれど
今日も同じパターンで ついに4敗してしまったの。
悔しくてね 試合が終わったあと 
能見選手の家族でもなんでもないのに
うちは大泣きしてしまったの。
なんて可哀相なんだろう なんでこんなに頑張って投げたのに

負け投手にならなければいけないの って。

「カナの泣き虫ぶりは ついにここまできたか・・・」

そう言って苦笑いするんだろうけれど
うちを阪神阪神タイガースファンにしたのは
あっちゃん あなたなんだからね。
うちの家族 そう パパが巨人じゃびっとファンだったから

家でプロ野球中継を見ることは よくあったけど

阪神の選手にはあまりなじみがなかったのよ。
それが あなたを好きになって
あなたと恋人同士になってから
あなたの買っていた 月刊タイガース阪神を「読まされて」から
 

ううん それは嘘ね

あなたがこの世を去ってからは 
阪神のことをニュースで聞くこともつらいと思う時期があった。

うちにとっては 阪神=あなただったから
元気だったあなたを思い出してしまうのがつらかった
だからスポーツニュースは全然見なくなったんだった。

だけどいつ頃からか
このチームを 手放しで応援したくなったの
原因は 今でも本当のところはわからないけれど

気がついたら 阪神タイガースというチームが
大好きになっていたの

あなたが大好きだった
そして今はうちも大好きなこの 阪神タイガースが
今ものすごく元気がないの。
いろいろ元気がなくなる理由があるのだろうけど
野手のみんなが 全然調子よさそうじゃなくて
ピッチャーは そこそこ頑張っているんだけれど

打線の援護をもらえないものだから
中・終盤につかまって 打たれることが多くなった。
そしてその時にした失点が 決勝点になることが多くなったよ。

このままじゃ 頑張ってるピッチャーの調子も変わってきそう

ねぇ 
こんなことを 亡くなった人にお願いするのは
おかしなことだって 本当はわかってはいるの
わかっているけど あっちゃん あなたに助けて欲しいの

このチームに 元気をわけてあげて。
このままじゃ みんなの気持ちが折れそうで 怖くて仕方がないの。

あっちゃん お願いね。
先発ピッチャーに 勝ちをつけてあげられるほど
みんなが少しは打てるようにしてね

お願いよ。



今も昔も我儘な カナより。

日が長くなった6月とはいえ
夜も 7時を過ぎると
徐々に 空が薄暗くなってきているのがわかります。

私の部屋で いっぱい気持ちを伝えあい

愛を確かめあい
お互いのぬくもりを求めあってきた
6月の最初の日曜日は
他のどの日とも同じ 24時間だと決まっているから
先生が 新大阪駅に向かわなければいけない
タイムリミットが近づいていました。

今日は
朝早くから先生がこっちに来てくれて
時間ぎりぎりまで 
私の部屋に居てくれると話してくれた通り
ずっとずっと 

12時間 一緒に居てくれました。
一緒にスーパーへお買い物に行ったり
お昼ごはんを一緒に作ったりしました。
(ほとんどすべてを先生が作ったので
本当は『一緒に作った』とは言いませんね・・・)

そして
たくさん お互いの気持ちを伝えあって愛しあって
先生は私を 私は先生を求めて
いっぱい いっぱい愛を伝えあいました。
今までも いっぱいしたことだけれど
今日のそれは 
私を とても幸せな気持ちにしてくれました。

大好きなこの人の たくましいからだに抱かれて 
こんなにも愛される幸せ
大好きなこの人から 自分が女であることの歓びを
あらためて教えられる幸せ
この人を 私が幸せにしたいと思う気持ち
そのものが私自身の幸せに繋がっているということを
自分でわかることができる 大きな大きな幸せな気持ちに包まれて
私は 先生に寄り添って 電車の座席に腰をおろしていました。

先生は 敢えて何も言わないけれど
自分の肩にもたれかかって
顔を見上げる私のことを見つめて
優しく微笑みかけてくれました。

「忙しいのに 来てくれてありがとう・・・」

そう言うと 先生がすっと私の頭を撫でてきました。

「カナも 俺につきおうてくれてありがとうな
今日のことは
俺が逢いたかったから 俺が決めたんや
今回は 1日しか来れんけど
朝から晩まで一緒におりたい って

こっちこそ ありがとうな。」


座席の前に立つ人達が 私たちをちらちら見ています。
きっと
「こんな公共の場でいちゃいちゃして!」
そう思っているはずです。

電車は もうすぐ新大阪駅に着きます。
乗客の中には ここで降りる人が多いみたいで
網棚に置いた 自分の鞄を取る人や
大きなショルダーを肩に掛け直す人
きっとこの人たちは
私たちと同じ駅で この電車を降りるのでしょう。
次の新大阪で開くドアの方へと 視線が行っています。

「行こか・・・」

先生が立ち上がったので
私も 少し遅れて立ちました。

電車は 徐々にスピードを落としてゆきます。
窓の外のコンクリート壁が うっすら明るくなってきたと思ったら
そこはもう 駅のホームでした。

到着を告げる音
人々のざわめき

私には 
すべてが 先生が自分の家に帰ってゆくための号令に思えます。

「カナ 危ないよ。」

ぼ~っと歩く私は 人にぶつかりそうになりました。

「ご、ごめんなさいっ!」

当たりそうになった男性に 頭を下げましたが
気に留めるでもなく その人は足早に去ってゆきました。

すっと 先生の大きなてのひらが

私の手を包みこみました。

「カナは 高校生の時と一緒や
駅でひとりにしたら 危のうてしゃあないなぁ。」


先生が 何を思い出したのかわかります。
あの 修学旅行の時のことを指しているのでしょう。

「ふふ・・・」

心配そうな顔で 私のことを探しにきた先生は
10月に 東京の夜空を歩くには
とても薄着な スウェットのままで走ってきたのでした。

その日のことを思い出して笑う私の額を
先生が 軽くぱちんと指ではじきました。

「いたあ・・・」

「ほんま 人に心配かけて悪い生徒や
とんでもない恰好で 楽しげに地図ひろげてんの見た時は
ぶっとばしたろかって思ったよ。」

確かにあの時は これから何処へ行こうか と
内心わくわくしながら ガイド本を広げていました。

新大阪の駅構内を歩きながら
私たちは その時の話をしました。

あの駅で先生に見つかって 叱られたあと
私がもう一回「脱走」して ホームに駆けて行く時に

改札で切符を渡して入ってしまいました。
先生が 咄嗟にそれをもらって追いかけて行く途中で
「なんてはねっ返りなヤツ・・・  この子は爆弾かいな?」
そう思いながら追いかけて行ったことなどです。

こうして駅の中を歩いていると
私にも あの時のことが
まるでつい最近のことのように思えてきました。

「あのときが 初めてじゃないけど・・・」

「え?」

私が切り出した言葉に 先生が訊き返してきました。

「何?」

「あっちゃんに抱きしめられたのは あれが初めてじゃないけど
ぎゅうって 意志を持って抱きしめられたのって
あの時が初めてじゃったね。」


そう私が言うと 先生は照れくさそうな顔をしています。

体調を崩した私が 倒れるのを咄嗟に支えてくれて
抱きしめるような格好になったことが
数回ありました。
他にも 私には先生の気の迷いと思えるようなことも です。

「ああ  そうやったな・・・」

ひと言 つぶやいたあと
先生はふっと 私の方を見つめてきました。

「あの時 俺には2種類の気持ちが混ざってた
ひとつは 
今度逃げられたら 切符持ってないこの子が電車に乗ってしまう

それは 絶対防がなあかん って・・・

もうひとつは 
俺はもう この子のこと好きになってしもてるんやなぁ
この子 ただの生徒のはずやのに
可愛い ほっとけん
こんなはねっ返りやけど 守ってやりたいって。」


「あっちゃん・・・」

「カナ 今日もホームまで来るか?」

入場券を買うか訊かれたので 私が自分の財布を出そうとすると
先生にそれを止められました。

先生が 自分が券売機で買ってくるからといい
私に 自分の鞄を持っていてと言い残して
さっと売り場へ走ってゆきました。

その先生の背中を 私は目で追いかけます。
大きなたくましい背中 
私の大好きな 優しい背中です。
ふと 遠くにあるガラスに目をやると
外はたぶん すっかり夜になっているようでした。


『どうして太陽は沈み夜がくるんだろう』

私の脳裏に ふとその言葉がよぎりました。
それと同時に つっと涙が頬をつたうのがわかりました。
先生とさよならするための 
新幹線の到着時刻が だんだん迫ってきているから
私の胸は苦しくせつなく

でも 騒ぎたてるのです。