このような就業規則は、職場における法律のような機能を果たしますから、使用者もそれに従って行動することが通例であり、使用者の恣意的な行動を抑制するルールとしての役割を果たすことになります。他方で、就業規則は、労働協約などとは異なり、使用者が一方的に設定するものですが、それゆえに、一方的に労働条件や服務規律が定められ、労働者に不利益をもたらすおそれがあります。そのため、労働基準法は、就業規則の職場におけるルールとしての役割に照らして、使用者に対し、常時一〇人以上の労働者を使用する事業場において就業規則を作成すること、また、掲示や備え付けなどにより労働者に周知させること(就業規則の存在や内容を知りうる状態に置くこと)を義務づけています。
他方、就業規則の内容が労働者に不利益になるおそれがある点については、労働基準法は、就業規則の設定・変更にあたり、使用者は事業場の労働者の過半数を代表する労働組合から、もしそのような組合がなければ過半数の代表者(民主的な方法での選出が要求されます)から意見を聴取すること(九〇条)とともに、就業規則を労働基準監督署長に届け出ること(八九条)を義務づけています。労働契約法も、就業規則と労働契約の関係についていくつかの規定を置いています。まず、労働契約法七条本文は、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」としています。
この点は、そもそも、就業規則と労働契約はどのような関係に立つのか、就業規則はそもそもいかなる性質をもつのかという問題にかかわることですが、これまで、就業規則の法的性質に関しては様々な見解があり、就業規則それ自体を一種の法規範とみる法規範説と、就業規則は契約のひな型のようなものにすぎず、労働者が何らかの形でそれに合意することを通じて契約内容になりうるという契約説がありました。そして、近年の学説では、就業規則を、定型的・集団的な契約を結ぶ際に使われる約款のようなものととらえ、労働者は、その具体的内容を知らなくとも、使用者と労働契約を締結する際には就業規則に従う旨を一括して合意したものと推定するという定型契約説が有力となりました。
最高裁判例も、必ずしも具体的な説明はしていませんが、就業規則の定める労働条件は、それが合理的な内容のものである限りは労働契約の内容になると判示し、契約説に近いとみられる立場を示しています。先の労働契約法七条本文は、就業規則の定める合理的な内容の労働条件が労働契約の内容となると読めば契約説的な立場を示したものと読めますが、むしろ、この条文ができたことによって、就業規則の法的性質を議論する必要自体が小さくなったとみた方がよいかもしれません。
なお、労働契約法七条本文は、既に就業規則が存在して周知されている場合に、労働者が新たに労働契約を締結するとき(本人への周知も必要です)を想定した規定です。したがって、労働者が労働契約を締結した後に、使用者が就業規則を制定して周知させた場合は、この規定の対象場面ではないことになります。この場合は、新たに制定された就業規則がこれまでの労働契約の内容とは異なる限りは、就業規則による労働条件の変更の問題としてとらえられるでしょう。この点については次に項を改めて述べます(六五頁以降参照)。また、労働契約法七条のただし書きは、「労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、コー条に該当する場合を除き、この限りでない」と規定しています。