ほぼシベリア 東北カザフスタンを行く 2024年
7 コクシェタウ(6)
コクシェタウの中心部まで戻ってきた。午後は市場を散策しよう。が、その前に腹ごしらえが必要だ。もうすっかりなじみになった、交差点近くの食堂に入る。この店は、アスハナという名前のスタローバヤ(軽食堂)だと思っていたけれども、アスハナとはスタローバヤのカザフ語だと気がついた。本当の店名はブロク・ピターニヤと言うのだった。
今日の昼食はタタール風の煮込み、チーズ入りのパン、アシュリャンフというサラダである。サラダには太くて平たい春雨状のものが入っていて、食感がなかなか気に入った。元々、アシュリャンフとは、中国から来たムスリムであるドゥンガン人の料理で、ラグマンのような麺料理のはずだ。このアシュリャンフに入っている平太の春雨は韓国のタンミョン(短麺)なるものらしく、現在のカザフスタンでは意味するところが少々違っているらしい。
店を出て、団地の間の通路を通り、市場に入る。前述したとおり、この市場はいくつものショッピングセンターの集合体と、それらの間に並んだ屋外の店舗とで成り立っている。
露店は基本的に衣料品や靴の店ばかりであって、他の業種は魚屋と古本屋がそれぞれ一軒しかない。今日は雪が降っているけれども、コートも靴も降る雪に晒されっぱなしである。とはいえ、払えばサラサラと落ちるような雪だから何の問題もないのだろう。さすがに古本屋では商品にビニールシートをかぶせていたけれど、それも露台の半分だけでしかない。
そういえば、雪が激しくなっても傘をさしている人を全く見かけない。傘を持っている人もいない。そもそも、店で売っているのすら見たことがない。
市場だから、当然ながら青果や肉、チーズの店も存在しているはずだ。そう思って歩き回った末、生鮮食料品の売場がコクシェ・マーケットという平屋の建物に納まっているのを発見した。しかし、さして大きな建物ではなく、各売り場の面積も狭い。
市内には他にもスーパーマーケットが何軒かあるけれども、スモールというチェーン店をはじめ、比較的小さな店舗ばかりである。これで、10万人以上の胃袋をどうやって賄っているのだろう。
コクシェ・マーケットの片隅には、焼菓子などの店もあった。値札を見ると他の店と比べて半額に近い。明日の朝食用にポンチク(ドーナツ)などを仕入れておく。
そのほかの建物にも手当たり次第に入ってみる。例によって外観からはどんな店舗が入っているのか、ほとんどわからない。内部は概ね、狭い通路の両側にところ狭しと商品を並べているだけであって、その商品も特別に目を引くものがあるわけではない。ただ、照明器具の店だけは妙に華やかな感じがする。これはアルマティのコク・バザールとも共通する印象だ。
そんな中で、ルビンというショッピングセンターは少し毛色が違った。ここは細長い2階建ての建築で、ガレリア風にしつらえられている。入居している商店も、紅茶の専門店があったり、ベラルーシ商品の店があったりするし、商品の値段も他所より高いようだ。ショッピングセンターのマークが、色こそルビー色でも形がダイヤモンドなのは、高級志向の現れなのか。
市場の最も奥にはリオという大きな建物がある。ここはデパートと言ってもよい規模の店で、中央には5階までの吹き抜けがあり、1階にはお高そうなブティックなどが並んでいる。この通路は延々と伸びて、新モスクの向かい側まで続いていた。ところが、どういうわけか、そちら側の出入口は閉鎖されている。そのせいもあってか、ほとんど人が行かない。その端まで行ってみると、開かずの扉の前、壁の陰になったところにカフェがあった。看板ひとつ出しているわけではないから、存在に気付く人は皆無と思われる。私の姿を見た店番の女の子が、スマートフォンから顔を上げて勇んで立ち上がったけれども、この後に夕食を食べるつもりだから、ここに入るわけにはいかない。
夕飯は、またもやブロク・ピターニヤへ。おかずのメインはひき肉の上にご飯がのったラザニアのようなものにした。主食のつもりで大きなパンも食べたから、炭水化物だけでおなかがふくれてしまった。だから、今夜はデザートなしである。
腹ごなしに、夜の街を散歩しよう。



















