中央アジア巡礼行記 2023年

26 アルマトゥイ(2)

 

 アルマトゥイの中心、キョク・バザールにやって来た。カザフスタン最大都市の中央市場として雑然とした活気を期待していたのだが、どうも勝手が違う。建物は直方体の無愛想な箱に過ぎないし、その内部には雑貨や電化製品の店が入居しているだけで、全体がせせこましい駅ビルのような感じなのだ。この市場、内部は撮影禁止という情報もあったから、はじめからあまり期待していなかったけれども、これでは撮影する気にもなれない。

 

 

 落胆しつつ、一旦表に出て角を曲がるとカフェテリア方式のレストランがあった。デギルメン・エクスプレスという店で、どうやらチェーン展開しているらしい。こういう店の方が気楽で良い。サリャンカとピラフで遅い昼食にする。

 

 

 

 

 デギルメンを出て、道を反対側へ回ってみる。するとビルの裏側に車の入れない通りがあり、左右に生活用品の店がずらりと並んでいるではないか。なあんだ、こっちが市場だったのかと喜び勇んで入ってゆく。「内部」は撮影禁止でも、ここは屋外だから写真を撮っても大丈夫だろう。愛用のコンパクト・カメラを取り出してシャッターを切ってみたけれども、誰も咎めたりはしない。

 

 

 

 

 

 奥へ進むとアーチ状に屋根のついた部分があったり、トタン板の屋根がついたり、はたまたビニールシートを掛けただけの通路があったりして、行けども行けども市場は尽きない。ふと右手を見ると渡り廊下の先に体育館のような建物への入口があって、薄暗いながらも人が出入りしている。

 

 

 

 

 

 何かあるのかなと入って見ると、中には生鮮食品市場の大空間が広がっていた。ここでも、例によって吹き抜けを取り囲んで周囲にテラスが廻っているので、2階へ上がって売場を見下ろすことにする。

 

 

 

 

 

 タシケントのチョルスー・バザールが円形の建物だったのに対し、こちらの吹き抜けは正方形であり、しかもホール内に4本の大きな柱が立ち上がっているから、見通しはあまり効かない。しかしながら、肉なら肉、果物なら果物の店が一直線に並んでいるので、それはそれで壮観である。

 しかも、4本の柱のそれぞれにもテラスが設けられていて、カフェなどになっている。あそこに上がってお茶をするのも良さそうだが、あいにくとさっき食べたばかりだ。

 

 

 

 それにしても、写真撮影禁止などという表示はどこにも見当たらない。観光客らしき風体の人もいないから誰も写真なぞ撮ってはいないけれども、これなら大丈夫そうだ。案の定、いくらシャッターを切っても誰も何も言わないし、そもそもこちらに注目すらしていない。 

 売場の一角にはキムチやキムパを売る店もあった。店番をしている人は朝鮮系のようにも思えるけれども、元々カザフ人は日本人と似た風貌だから見分けがつかない。

 

 

 

 

 

 このホールに入るときに通った渡り廊下の下にも店舗が見えていたので、階段を下りてみる。すると階下にも上階と同様に食料品の店が並んでいて、負けず劣らず買い物客で賑わっている。

 

 

 

 

 

 さらに通路はあちらこちらへ伸びていて、エスカレーターで上がる衣料品デパートがあったり、ドラッグストアの並んだ一角があったり、インテリア用品や手工芸品のホールがあったりと、これはもう市場のクノッソス宮殿である。

 

 

 

 

 

 結局、キョク・バザールを何回、行ったり来たりしただろうか。いいかげん疲れたので、市場の迷宮を何とか抜け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 1ブロック南下すると大きな公園があり、その中にヴァズニセンスキー大聖堂があった。日本語では建築家に因んでゼンコフ教会と呼ばれている。早くも日が傾いてきて、ドーム上の十字架が西日にきらめいていた。大きな建築物で、これが木造とは言われなければ気が付かないだろう。 

 

 

 広場には銀色に塗られた「かぼちゃの馬車」も待機している。まるでイスラム世界に浮かんだロシア正教の島みたいなところだなと思う。

 

 

 

 アルマトゥイの中心部をパンフィーロフ通りという遊歩道が南北に貫いている。今日は土曜日であることだし、週末を楽しむ市民で賑やかなことだろう。そう思って、陽が暮れる前に行ってみる。

 確かに、この通りには音の出る遊具やリンゴのモニュメントがあって、そこそこ人出はある。ストリート・ミュージシャンも何組か見かける。その中のひとりはソ連時代の懐メロのひとつ、「Всё пройдёт」(「すべては通り過ぎる」、「すべてはうまくいく」とも訳せる。)をつま弾いている。

 

 

 

 しかし、どうも盛り上がりに欠ける。既に季節は初冬を迎え、今日は昼間でも気温が10度前後しかなかったから、休日を楽しむ気分ではないのだろうか。

 アルマトゥイは街全体が碁盤目状の計画都市であり、道行く人の服装もイスラム色はほとんど感じられない。宗教はロシア正教の方が優勢に感じられるし、街並みにソ連の雰囲気が残ることはビシュケク以上だ。首都をアスタナに奪われた影響もあるかもしれない。

 

 

 パンフィーロフ通りの突き当りにはオペラ劇場が建っていた。列柱建築をカザフの民族文様で装飾した優雅な様式である。今夜の演目はヴェルディの「ラ・トラビアータ」だそうだ。

 

 

 体が冷えたので、パンフィーロフ通りのカフェに入る。テーブル上のメニューには「センチャ」「ホット・マッチャ」と書かれたキリル文字が見える。しかも「マッチャ」には緑色と水色とがあるのだとか。水色の抹茶とはいかなるものかと思い注文してみる。

 結果は、ただの甘いホットミルクといった感じであった。グラスの底に粉末が少しは溶けずに残っていたけれども、抹茶の香りは全くしない。それでいてサービス料込み1925テンゲ(650円)と、いいお値段である。

 

 

 

 カフェを出ると、街の中心部とは言えども、ますます人通りは少なくなっている。大聖堂のライトアップを見て早々にアルマトゥイⅠ駅地区へバスで帰る。

 

 

 夕飯は駅の近くのスーパーマーケットでお惣菜を買って済ませた。トゥレツキ風ライスなる「そばめし」と、旧ソ連の各地で遍く食されている「昆布の佃煮」が合わせてたったの403テンゲ(130円)であった。売場の横にイートイン・コーナーがあったので手軽に食べられる。但し、お味の方は値段相応であまり感心しなかった。

 夜食用にクリームパンを買ってホテルに帰った。昔懐かしい野球のグローブ型をしたクリームパンである。この形にはどこかに元型があるのだろうか。こちらはミルククリームが甘くておいしかった。

 

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