中央アジア巡礼行記 2023年

4 タシケント(3) 

 

 工芸美術館を見学し終えて、今日のもう一つの目的地であるアミール・ティムール博物館に向かう。先ほど蚤の市を冷かしたり昼食を取ったりした公園はどこまで続いているのだろう。そう思って元来た道を引き返す。しかし、案に相違して公園はフィッシュアンドブレッドの直ぐ先で通りに突き当たり、地下道をくぐる羽目になってしまった。

 

 

 地下道を抜けると右手に劇場があった。大きくはないけれども瀟洒な建築である。そのまま通り過ぎてしまったが、これが有名なナヴォイ劇場であった。そうと知っていれば外観だけでももっとよく見ておけばよかった。

 

 

 

 次の一角はこれまた大規模な再開発工事中で、随分と景気の良いことだ。そして再び緑地帯が現れ、右手の方へ導かれるままに進んでゆくと、苑内の遊歩道に先ほどとは別の蚤の市が開かれていた。こちらは路上にずらりと油絵を並べて売っている人が多い。舗道には黄葉し、或いは落葉した木立ちの影が長く伸び、情感豊かな景色である。その通りを進むと今度は、路上に常設の売店が並ぶ歩道が現れた。ハンバーガー、ケバブ、コーヒー、清涼飲料水などの店に加えてゲームの店もいくつか出ている。中央アジアらしく、キムパッの店まである。

 

 

 店舗の裏側には天幕が張られてイスとテーブルが置いてあるから、買ったものをそこで食べることもできるのだ。漢字としては台湾の夜市とウクライナのクリスマスマーケットを足して2で割ったようなところだと思えばよい。

 店舗背後の一角には卓球台が何台も並んでいて、これも「営業」らしい。ただし、プレイしているのは学生らしき男子ばかりであった。

 この通りはブロードウエイ・マーケットと言う。コカ・コーラやペプシコーラの看板がやけに目立つし、今どき、そんなにアメリカに憧れがあるのだろうか。

 

 

 

 

 屋台が尽きるとここにも地下道があって、向こう側にティムール像が見えている。やっぱり、タシケントの中心だけに国内外の観光客が集まって写真を撮りまくっている。その背後には左手にはホテル・ウズベキスタン、右手にはサマルカンドにあるシェルドル・マドラサの太陽像を引用した白亜の殿堂が構えている。はじめはこの四角く白い建物がアミール・ティムール博物館だと思い周囲を一周してみたのだがそれらしき入口がない。改めて地図を見たら、こちらは国際フォーラムとかであって、広場の外側に見えている緑屋根を抱いた建物がティムール博物館であった。

 

 

 ずいぶんと回り道してティムール博物館にたどり着いた。円形の建物には周囲にたくさんの扉がついてはいる。ところが、一周してみたところ、そのどれも入口ではなかったのだ。あたりにいた人に尋ねると地下から入るのだと教えてくれた。その地下への階段には写真スタジオの案内しかなく、これではわかりようがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、この博物館の内装は豪華絢爛であった。もっとも内装に比して展示物の方は格別ではない。天文の解説をするウルグ・ベクだとか何となく気弱そうなサルタンの肖像画だとかがあるばかりなのだ。考えてみれば、ティムールの時代の遺産は建築を別にしたら、何かあるのかよくわからない。

 

 

 ティムール博物館から出ても、まだ日暮れにまでは時間があるので、近くにあるオロイ・バザールに足を伸ばしてみる。この界隈はタシケントの中心だけにイスラム風の衣装を取り入れた重厚な建築が多く、街の風格を感じる。

 

 

 

 バザールの建物は、かまぼこ型の大屋根に列柱とアーチの玄関が取りつき、少々新しすぎるものの、いい雰囲気である。しかし、その内部はブランドショップが入ったショッピングセンターに過ぎず、オロイ・バザールとはこんなところだったのかとがっかりする。

 

 

 

 

 

 それでも、通り抜けができるので突っ切ってゆくと、その先に、平屋根の下のバザールがあって、ザクロジュースの屋台や果物を積み上げた店舗が並んでいた。屋根も新しいもので全体に清潔な感じのバザールである。

 

 

 

 

 

 

 色んな国の市場を見てきたけれども、どこの国でも果物や野菜をはじめとして、ディスプレイがとても上手だ。このバザールもその例に漏れないので、見て歩くだけでも楽しい。ドライフルーツや茶葉の類を透明な袋に詰めて積み上げるのが、この市場のこだわりらしい。

 

 

 

 敷地の横手には裏口があって、こちらは地元民が出入りするこざっぱりした門になっていた。

 

 

 さて、ようやく日没後のトワイライトタイムとなってきた。今夜も大通りのイルミネーションがきらめきはじめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブロードウエイ・マーケットに戻ったら、ペーブメントの頭上から七色のイルミネーションが降り注いでいた。フリーマーケットの油絵も夜の明かりで見た方が上等に見える。

 

 

 

 夕飯は、バーガー・ラヴァシュとある売店でホットドッグとケバブサンドを買った。ところが、コカ・コーラ製品のマンゴー・ティーもつけたら44000スムと昼食よりも高くなってしまったのだ。その上、ケバブサンドは味が単純で意外と量も多くて少々持て余す。ラヴァシュとはチャパティのようなパンの一種だそうだからそちらを選べばよかったかもしれない。屋外のテーブルで食べたけど、薄手のパーカーに薄手のジャンバーだけでも、さほど寒さは感じない。

 

 

 

 

 昼間、お上りさんであんなに賑わっていたアミール・ティムール広場も、夜になると家路を急ぐ学生たちが足早に通り過ぎるばかりだ。彼らと一緒に広場を抜け、2番のバスが停まるバス停へ向かう。バスを待つ客はかなり多く、次から次へと様々な系統のバスが来ては人々が乗り込んでゆく。乗ろうとしている2番バスは、19時までなら10分毎に運転しているはずなのに、なかなか来ない。

 交差点の真ん中では警官が出て交通整理をしている。この国の運転はかなり荒っぽいから彼らも命懸けだなと思う。何より車がやたらとクラクションを鳴らしてうるさい。映像や写真だけ見れば先進国と変わらない、いやそれ以上に美しい都市風景なのだが。(バス・ベイの入口でエンコしてしまった車がいたことは見なかったことにしておこう。)

 

 ようやく、2番バスがやってきた。運賃2000スムを運転手に渡して車内に入る。タシケントのバスには常に地元のポピュラー・ミュージックがかかっている。ロシア語の曲もあればウズベク語の曲もある。しかるに停留所のアナウンスはない。窓はスモークガラスで夜などほとんど外が見えないし、見えたところでバス停に底流自明の表示もない。

 幸い、見覚えのあるイルミネーションの先に、ホテル最寄りの停留所があったから乗り過ごさずに済んだのだが。まさか、そのために街角のイルミネーションが存在しているわけでもあるまい。

 

<5 アフラシャブ号サマルカンド行 へ続く>

<うさ鉄ブログ トップページ へ戻る>