百済の古都と茶畑を訪ねて 2023年

9 全州(2)

 

 昼食が終わってもまだ雨が降っているので、豊南門に隣接する南部市場へ行くことにする。さっき門を見学した時から、門のあるロータリーから伸びている暗くて屋根のかかった路地が気になっていた。入り込んでみると、果たしてこれは南部市場に続く通路であった。

 

 

 

 

 この市場は三角形の敷地に東西南北それぞれ3条のアーケード商店街があり、それなりの規模がある。衣料品や雑貨の店が多く、青果や食料品店のはあまりない。竹製品の店が至近に2軒あって、一方は雑然、一方は整然と商品を並べているのがおもしろい。

 

 

 

 それにしても歩いている人が少ない。アーケード自体も古びていて、要するに寂れている。3条のメインストリートの間には細街路があり、その中には全州名物のコンナムルクッパやスンデなどを食べさせる店もある。そういう店には若い二人連れなども入っている。しかし、細街路と細街路の間には、さらに細い細々街路もあって、そのあたりまで来ると最早、営業している店は只の一軒も見当たらない。

 2階には「青年モール」があるとのことで、階段を上がってみる。雑貨の工房兼店舗などが並んではいる。だが、こちらは階下に輪をかけて人の通りがなく、店舗もやっているのかいないのか分からないような状態だ。

 どうも期待外れだった南部市場ではある。ただ、トイレがたくさんあるのだけは助かった。そのかわり、只で使わせてもらって言うのもなんだが、あまりきれいでなく紙も石鹸もない。

 

 

 

 さて、古い市場は凋落傾向でも、これだけの都市なら新しい繁華街は栄えているだろうと思い、豊南門からまっすぐ延びる通りを北上する。この通りは今でこそ裏通りのようになってしまっているが、元々は全州の中軸を成していた道である。その証拠に、全州監営、全州客舎などという史跡が通りに沿って並んでいる。

 全州監営など真新しい復元建築だし、豊沛之館という名の客舎も差して見どころがあるわけではない。とはいえ、こちらまで足を伸ばす観光客はほとんどいない。みんな、そんなに作り物のような韓屋村がいいのだろうか。

 

 

 

 さらに通りを北へ行くと商店街になる。道路の中心線に沿って申し訳程度のアーケードがかかっている。再び雨が降って来たけれども、これでは何の役にもたたない。設計者やこの案を採用した面々は、かっこいいと思ったのだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 このあたりで引き返して、再び韓屋村の中心へ。観光用でない、少しでも生活感のある家や路地を求めて徘徊する。時折、雨脚が強まるので、そういうときは、街角につくられた六角亭に避難する。この通りは親水公園のような遊歩道になっているから、少しは安らぎが感じられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと午前中も歩いた、全州川に沿った旧市街の南東部分に来ていた。堤防から降りる階段が極細の路地につながっている。すぐそばには郷校などもあって、全州らしさが残っているのはこのあたりだと感じる。

 

 

 

 

 

 郷校も訪れる人は少なく、雨上がりの構内は森閑としている。

 

 

 もう少し道を進むと、数軒の川魚料理屋が固まって建っていた。道を挟んだ川べりには細長い露台があって、ここで涼みながら料理をつまむという趣向だろう。

もう夕飯の時間ではあるけれども、川魚は結構いいお値段だし、舌代には二人前と記されている。どの店もお客はいなかったから交渉すれば一人で食べられそうに思ったが、億劫なので立ち寄らずに踵を返した。

 

 

 結局、夕飯は旧市街のはずれにあるトンカツ専門店に入り「全州トンカツ」1万ウォン也を食する。これは、とにかくトンカツを食べさせる料理で、肉が400グラムほどもあったのではないだろうか。五穀米のようなご飯がほんのひと盛りだったのが、かえって良かったくらい肉だけでお腹がいっぱいになった。

 

 

 

 店を出ると、ちょうどトワイライトタイムとなった。韓屋村の人通りはすっかり少なくなり、雨上がりの濡れた舗道に商店の明かりが反射していい雰囲気だ。たとえ一泊でもこの街に滞在することにして良かったと思う。

 

 

<10 宝城(1) へ続く>

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