スイスの東北ぐるり旅 2003年

8 ファドーツからルツェルンへ

 

 1番のバスでリヒテンシュタインを縦貫する。グーテンベルク城の周りを4分の3周してから、おもむろにライン川を渡ってスイス領に入る。鉄道線路を越えたところにトリュブバッハという小駅があるけれども、バスは次のサルガンスまで行く。同行者が「前に来たときは、こんなところを通ったかな」と言う。以前にこの区間を通ったときも同じことを言っていた。

 サルガンスで列車に乗り継ぐ。駅を出るとわずかの間だけ、城と街道筋の家並みがいい感じに見えるところがある。けれどもこの町も毎回通過するばかりで歩いたことはない。

 

 

 列車はワーレンゼーの幽玄な湖面を見てしばらく走る。景色が開けるとチューリヒ湖畔のプフェフィコンで、ここで下車する。地下道にハーモニカを吹くおばさんがいた。ヨーロッパの駅にはよく楽器を演奏する人がいるけれども、中年女性はあまりみかけない。

 待合室に切手の自動販売機があったので買ってみる。お金を入れてから希望の金額をテンキーで入力すると、その金額が印字された切手が出てくる仕組みである。一見、優れもののように思えるのだが、お釣りもやっぱり切手で出てきてしまうのは困りものだ。小銭をかき集めて、もう1回分になるよう差額分の切手を買っておく。

 この駅でビジネスマン風の二人に「チューリヒ行きは何番線?」と英語で聞かれた。きっとあの二人はアメリカ人で電車になんか乗ったことがないのだろう。次に来るのは各駅停車だから、もう1本後のに乗るよう念押ししておく。

 

 プフェフィコンからは、サンクトガレンから来たフォアアルペン・エクスプレスに乗車する。愛称がついているといっても、つないでいるのは大方が普通の客車である。しかも2等車のシートに座ると、窓に「アルト・ゴルダウからルツェルンまで貸し切り」と張り紙がしてある。隣の車両に移ってみると、こちらはビストロ・カーとかでテーブルが大きい。別に食堂車としての営業をしているわけではなく、座席として開放しているようだ。

 片隅には、幼い男の子二人に赤ん坊まで連れた、生活に疲れた風のお母さんが座っている。こうした人たちには使いやすい配置の車両だろう。

 

 プフェフィコンを出て、チューリヒに向かう本線と別れ、こちらは丘を登ってゆく。屋上に鉄道模型をしつらえた家が2軒もあった。

 車窓からチューリヒ湖が見えなくなると、ゆるやかな峠を越える。このあたりは人家も少なく、のどかな眺めだ。

 

 

 

 

 やがて左手にラウエルツツァー・ゼーの展望が開ける。湖の向こう側の山塊は有名なリギ山で、裏側から眺めると格別の山とも思われない。それでも高いところから見下ろす湖と中腹の牧草地の取り合わせが素晴らしい。左手の方に尖った稜線を見せているミーテン山の姿も良い。

 列車は徐々に高度を下げ、リギ登山口のひとつであるアルト・ゴルダウに停車する。小さな青い電車が急坂を上っていくのが見える。この駅からは小学生の一団が隣の予約車両に乗り込んだ。

 

 

 

 アルト・ゴルダウを出ると今度は右手にツーガー・ゼーが現れる。赤い屋根の密集したアルトの町が湖のどん詰まりに見えている。先ほどの登山電車はかつてこのアルトの港までの線路を有していて、湖船連絡をしていたという。

 その先で、ルツェルンへ向かう列車の経路は二手に分かれる。この列車は南のメッゲンまわりである。こちらの線はどちらかというとローカル線で、中・長距離列車は北側のロートクロイツを経由する方が多い。

 

 

 わがフォアアルペン・エクスプレスはインマーゼーという駅で左折した。湖の間と言う意味の駅名にふさわしく、2キロメートルも進めば今度はフィーア・ヴァルト・シュタッター・ゼーの岸に出るのだ。こちらの入江の奥にもキュスナハト・アム・リギなる駅があって、町の反対側からリギ山へのロープウェイが伸びているのも見える。但し、この町の建物はあまり趣がない。

 メッゲンの岬を回るところにはトンネルがあって、抜けるとチラとメッゲンホルン城が見える。そして、ルツェルンの旧市街裏をトンネルで抜けロイス川を渡る。ここではシャトー・ギュッチュが少しだけ見えた。これは、城のような外観のホテルであって、ある意味、悪趣味と言えなくもない。しかしながらヴィクトリア女王も滞在したことがあるそうだから、由緒は正しいのだろう。

 

 

 

 

 さて、ルツェルンにやって来た。この街は観光都市と言ってよいだろうけれども、人々の暮らしと観光とが程よく調和しているように思える。街の規模も歩き回るに丁度いい大きさで、大好きな街のひとつである。

 ルツェルンの玄関口である鉄道駅は残念ながら近代的な建築である。風格ある石造りの駅舎は火災に遭ってしまい、中央のアーチ部分だけがモニュメントのように残されているばかりだ。

 

 

 

 常宿にしているホテルの一室に荷を解いて、さっそくテラスに上がる。間近に見える時計塔は文字盤を化粧直ししたようだ。そして遠景には、教会の尖塔の向こうにそびえるピラトゥス山が望めるのであるが、もやってしまっていてよく見えない。

 

 

 

 

 

 

 少し旧市街を散歩してから部屋に戻り、駅のスーパーマーケットで買ったサンドイッチで昼食にした。

 

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