コーンウォールの夏休み 2012年

10 カニとクリームティーを求めて 

 

 5月某日、今日はカジウィス漁港へ行ってみようと思う。カジウィスはコヴェラックの南西約6キロメートルの地点にあり、ブリテン島最南端のリザード岬にもほど近い。海岸沿いに例のコースト・パスをたどってもよいのだが、ここは車で出かける。車道は内陸を迂回してゆく。アップダウンの激しい細道で、2階建ての路線バスが身をひねるようにしてすれ違う。こんな田舎で2階建てでなくてもいいのにと思う。

 

 

 

 カジウィスの手前で、ルアン・マイナーという村を通過するとかやぶき屋根の家が次々と現れる。引き返して村の駐車場に車を停め、村を散策する。

小学校があり、制服を着た子どもたちがポールから伸びたリボンの端を持って、周囲を思い思いに回っている。こうすると中央のポールにリリアン編みのようなものができるのだ。

 

 

 

 この村の駐車場は無料だし、目的地のカジウィスまでも500メートルほどなので、そのまま歩いて坂を下ってゆく。

 途中、道端の茂みの中から突然にオヤジが転がり出てきた。ズボンの前を抑えているので、大きい用足しをしていたらしい。

 ほどなく、カジウィスの村を見下ろす道に出る。道のこちら側にも、谷の向こう側にもかやぶき屋根の家が並んでいる。

 

 

 

 さいごに右に曲がって短い急坂を下ると村の中心である漁港の一角に出る。漁港と言っても大仰な堤防などはない。小さな入江の中央にリトル・トッデンと名付けられた岩場が突き出していて、左右に分かれた浜の片方に漁船を引き上げているだけである。

 

 

 

 

 リトル・トッデンの上にはベンチがあって、港とかやぶき屋根の村のとりあわせが何とものどかな感じだ。写真を撮るにも最高の場所なのだが、岩場の周囲に柵などはないから、ファインダーをのぞきながら後退したら背中から転落しかねない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の中を散策した後は、来た時とは反対側の坂を上り、コースト・パスを歩く。村を出てすぐのところに悪魔のフライパンなる、岩場が侵食されて大きな穴が開いた場所がある。しばらく行くと右手に分かれるフットパスが現れるので、そちらをたどる。

 

 

 この道に沿った垣根の向こうはグワヴァス・ジャージー・ファームという農場で、茶色いジャージー牛の姿がちらちら見える。このジャージー牛のミルクこそ、あのクロテッドクリームの原料となるのだ。海べりに位置するこの農場の牧草には潮風のミネラル分がたっぷりと付着して、ミルクもより濃厚になるのだという。

 この農場でもオリジナルのクロテッドクリームを作っているはずなのだが、これまでのところ近隣のファーム・ショップなどを除いても見かけたことがなかった。だから、直接に農場へ行って買おうと思って、開け放しの門を入る。ところが、本館とでも言えそうな大きな家の陰から猛犬が突進してくるではないか。これだけ吠えたてるのだから家に人が居れば様子を見に来そうなものだがそれもない。と言うことは、作業にでて不在なのだろうから、犬を押しのけてまで訪問しても意味はなさそうだ。

 

 

 クリーム購入はあきらめて駐車場に戻り、クリームティーを求めて車を走らす。リザード半島西岸のマリオン・コーヴなる港までやって来たが、ティールームはあるものの平凡な感じで食指が動かない。景色も高い堤防に囲まれていて感心しない。ここへ来る途中の道路脇にロッダスの牛乳缶とクリームティーの小さな看板を見ていたので、そちらへ回ってみる。

 

 

 看板の矢印に従ってA級国道から砂利道をガタガタと走る。突き当りに農場があり、その庭がティーガーデンになっていた。道端の看板以外には宣伝もしていないようで、他にお客はいない。どちらかというと趣味が嵩じた店のようでもあり、クリームティーが3.75ポンド(600円)とかなり安い。しかし、スコーンはしっかりとした味だし、クロテッドクリームも山盛りで出てくる。飲食する場所なのに「牛の匂い」が充満しているのに、それが少しも気にならないのが不思議と言えば不思議だ。クリームは大手のロッダスのはずだが、よそで食べるより美味しく感じるのは生産地に近いからだろうか。

 

 

 

 再びカジウィス村に戻り、漁港の魚屋でカニを物色する。丸ごと生でも売っているけど、これを茹でるのはさすがに無理だし殻も固そうなので、お値段8ポンド(1300円)のほぐし身パックを買う。

 

 

 

 海辺に出て岩場のリトル・トッデンにもう一度上がって海をぼんやりと眺める。ベンチに座っている初老の夫婦は午前中からずっと同じ人だと同行者が言う。そうかもしれない。

 

 

 コテージに帰って夕飯にする。食すのは、もちろんカニのサンドイッチである。大きなパックを買ったので、その夜はカニの食べ過ぎでお腹が苦しかった。それにしてもイギリスにもこんなにおいしいカニがあったとは知らなんだ。

 

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