コーンウォールの夏休み 2012年

2 トルーロからセント・ニューリン・イーストへ  

 

 フライビー802便のニューキーまでの所要時間は1時間10分、直行である。しかし、かつてはプリマス・シティ空港にも寄港していた。当時は運行もサウスウエストという、プリマスを本拠地にする会社だった。アメリカの有名航空会社と同名だが、こちらはローカル路線しか飛んでいなかったから問題なかったのだろう。

 ところが、2011年にサウスウエストは運行を停止し、数年後には空港自体も閉鎖されてしまったのだ。年間利用客数は13万人くらいで石見空港程度の規模だったけれども代替空港はエクセターくらいしかなく、人口約25万のプリマス市民にとっては影響が大きかったのではないだろうか。結局、ロンドン~ニューキー線は地域航空会社のフライビーが引き継いで運行を再開したのだった。

 

 1時間余り飛行して雲の下に出た。海上を飛んでいる。程なく旋回して海岸線を横切る。海食崖になっているから、水深は深いのだろう。曇っていても海面は深いエメラルド色をしている。コンクリートの護岸もテトラポットも目に入らないから心が和む。

 

 ニューキー空港では機体からターミナルビルまで歩いて行く。ビルと言っても平屋で、大きな農場程度の建物である。到着ロビーには、ベルトコンベアが、ループのと直線のと1基ずつしかない。

 空港内のレンタカー事務所へ行く。「小さい車だよ」と言って、キーと傷のチェックシート、駐車場を出るためのチケットを渡される。あとは勝手に駐車場に行って乗り込むのだ。普通は双方で傷の確認などをするのだが。事務所の奥では職員がコンピューターゲームで遊んでいるのがまる見えだ。大手レンタカー会社といえども、このあたりまでくると随分とおおらかだ。借りた車はフィアット500、ルパン三世が乗っているやつで、トランクにはスーツケースが一つしか入らないから、確かに小さい。

 

 

 まずは、南に18マイルほどのところにある、トルーロを目指す。トルーロはコーンウォール州の州都ではあるが、人口は2万人もいない。

 街の中心近くの駐車場に車を停めて、国道を地下道でくぐると広々としたレモン・キーという広場に出た。キーとつくのは、元は船着き場だったからで、トルーロ・リバーという川ともフィヨルドともつかない水面が、海からこの街まで深く切れ込んでいる。左手にはスーパーマーケットのマークス&スペンサー、右手にはパニエ・マーケットがあり、適度な賑わいで好もしい。

 

 

 

 パニエ・マーケットとは屋根付きの市場であって、中に入ると大屋根の下に小さな店がぎっしり詰まっている。奥へ進むと通路の突き当りに床屋がある。通路に面してドアも壁もなく、椅子はただ1台しかないから、ここで散髪したら他のお客にさらしものになってしまう。

 

 

 レモン・キーから街角を2回折れてボスコワン通りに出る。分かれ道の所にコイネージ・ホールという石造りの建物がある。14世紀の建造で、コイネージとは辞書によると貨幣のことだそうだから、元はギルドホールか何かだったのかもしれない。現在は1階にピザ屋が入り、2階がティールームになっている。お目当てはこの上階にあるシャルロット・ティールームである。

 

 

 骨董品や古本(これらは売り物だった)が並べられた階段を上り、扉を開ける。午後の店内はほぼ満席、席を占めているのはほとんど老人ばかりである。早速、クリームティーを注文する。スコーンは2人で4個、なぜか一つだけがサルタナ(干しブドウ)入りだ。いちごジャムは自家製、クロテッドクリームは最大手のロッダス社だが特注品らしい。そして紅茶は地元、コーンウォールにある農園のトレゴスナンである。これは日本の急須のように網のついたポットで出てくる。残念ながらこれだと茶葉が少ないし、お湯に充分浸からないので味や香りが出ていない。ここは気取らずに茶葉をたっぷりと(トレゴスナンはお高いのだが)ポットに直接入れてほしかった。

 

 

 車に戻る前にもう一度パニエ・マーケットに寄り、マーチンズというパン屋で夜食用のクリームティーセットを購入しておく。スコーン2個にトレウィセン・ファームのクリーム2オンス(60グラム弱)といちごジャム2つがついて3.25ポンド(400円)というのはかなりお値打ち感がある。

 

 

 今夜はもう一晩、ファームハウスのB&Bを予約してある。さすがに地の果て(コーンウォール西端の岬はランズ・エンドという)だけあって、目的地にはなかなか着かないのである。

 B&Bの所在地は、ニューキーにほど近いセント・ニューリン・イースト村であるから、国道A39号線をかなり戻ることになる。村の名前にイーストとつくのはペンザンス郊外のニューリンに遠慮してのことらしい。50キロメートルは離れているのに奥ゆかしいことだ。

 

 

 

 このファームハウスでも週末の午後にはティーガーデンがオープンするの。しかし今日は木曜日だし、閉店が17時ではいずれにしろ到着に間に合わない。

 部屋に納まり、さっき買いこんだクリームティーセットを食べる。スコーンはちょっと塩が効きすぎ。しかしクリームは濃厚でとてもおいしい。ジャムも地元の製品である。

 ところで、部屋に備え付けのティーカップは白一色で地味なものだが、ウェッジウッド製であった。ホテル、レストラン用と底に書いてある。 

 

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