建築と空間 イタリアの巻 1994年

17 アッシジ(3)

 

 

 

 アッシジの朝、早起きして散歩に出る。こんな時間から町をうろちょろしているのは日本人ばかりだ。しかし、霧に包まれた町の佇まいは静寂そのものである。坂道と階段を上り下りして、アーチをいくつもくぐる。名も知らぬ教会の扉上には消えかけた壁画があり、道端には聖母マリアを祀った小さな祠が作られている。霧にけぶる糸杉を眺めているうちに、聖フランチェスコの精神に少しは触れることができた気がした。

 

 

 

 

 やがて上空の霧が晴れて、ロッカ・マッジョーレに朝日が当たりだす。視線を転じれば、足元の平野は未だ霧の中に沈んでいる。

 

 

 

 ホテルに戻り朝食を食べてから、午後遅くの列車まで、もういちどアッシジの町を歩き回る。町の通りは石畳が多いのだが、標高の低い方へ行くとアスファルト舗装の部分もある。一方、高みに登るとオリーブ園があり、そのあたりは舗装されていない。

 

 

 

 

 電話をする用事があって、自動販売機でテレフォンカードを買う。1万リラ札を入れて5千リラのボタンを押し、もう一つボタンを押す。ギンジャラランと音を立てて大量のジュトンが吐き出される。よく見ると、最後に押したボタンには「ジェットーネ/トークン」と書いてある。これでも用は足りるからかまわないのだが、金属製だからえらく重たい。

 

 町を降りて駅へ行く。列車待ちのあいだにバールでカプチーノを飲む。バールでも出札窓口でもなぜか「ドイツ人か?」と聞かれる。

列車が着くとここでもホームに駅名が放送される。その後に音楽も流れる。別れる人たちが「Buon Anno」と「Buon Natale」を両方とも言っている。

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