建築と空間 イタリア 1994年
12 フィレンツェ(3)
そろそろドゥオモに行こうと思う。狭いセルヴィ通りを行けば、正面にブルネッレスキのクーポラがそびえたっている。クーポラといっても半球よりはだいぶ縦に長い屋根である。ブルネッレスキが二重構造の採用により構造上の課題を解決し、かつ高さを稼いだという。
ドゥオモに入る前に、その正面に建てられているサン・ジョヴァンニ洗礼堂を見る。北側扉の彫刻をブルネッレスキとギベルティが争ったのはよく知られた話である。残念ながら、現在の扉はレプリカで本物は博物館に収められている。
洗礼堂の立つ広場の角にビガッロのロッジアという開廊がある。じっくり見るに値する建築なのだが、華やかなドゥオモその他のそばではあまり注目する人もいない。
ドゥオモの西正面を見上げる。この装飾が完成したのは19世紀のことだから、ルネサンスの時代にこの景色が見られたわけではないのだが、やはりフィレンツェを象徴する建築である。右手にはジオットの鐘楼がすっくと立っている。クーポラと鐘楼を見上げながらどっちに登ろうか思案する。どちらも普通のビルなら20階以上に相当する高さがあるのだから、両方を階段で上るのはさすがにしんどい。結局、繊細な装飾が施された鐘楼の上部を間近に見られるであろうクーポラの方に登ることにした。
二重殻のあいだに作られた階段を上る。上りやすい階段ではない。そして頂上へ。期待に違わず、ジオットの鐘楼が目の前にある。南側を見れば、逆光になったドゥカーレ宮殿の塔も見える。そして点在する教会堂、遠景の緑豊かな丘と山並み。旧市街の眺めは赤瓦で統一された屋根のおかげか、晴れ渡った天気のおかげか、ローマのような重苦しさはない。









