バルト三国+ベラルーシの巻 2019年

3 タリン(2)

 

 寝不足の目をこすりながら早朝の旧市街を彷徨する。こんな時間からカメラを手にして歩いているのは中高年の日本人観光客ばかりである。

 

 

 

 

 冬は寒いし、日が短いから旅行向きではないと言う人もいるけれど、ヨーロッパに関して言えば冬も捨てがたい。明け方の静かな通りを散策できるのは、冬季旅行者の特権である。

 

 

 明け方から歩き回ってお腹がすいた。しかし、冬のこととて街は朝寝坊なようで、旧市街の店はほとんど開いていない。そこで城門を出て新市街に行ってみる。さすがにこちらはカフェなどが開いていて、パンケーキのようなものを積み上げている店が目に付く。カフェインと読ませるらしいその店に入る。パンケーキ状のものはキュルシスといい、メニューボードにショコラーデ、レッド・ヴェルヴェットとあるのでふたつとも注文する。しかしこれはパンケーキではなく、巨大なビスケットであった。かなり甘い物でもあり、少々持て余す。

 

 

 

 引き続き、旧市街を歩き回る。城壁の下にウクライナ東方教会の教会堂があるのに気がついた。玄関上にクレーンを備えた普通の建物で、案内板が出ていなければわからない。宗派としてはカトリックだが典礼はビザンチンだということで、内部は正教会と変わりがないように見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧市街西側の城壁沿いも歩いてみる。ガイドブックには、このあたりは治安が悪いので気をつけろとある。確かにほとんど人通りがない。善人も悪人も歩いていない。

 

 絵はがきを見つけて買っておいたので、投函したい。新市街に出てすぐのところに郵便局があるはずなので朝方行ってみたけれど、そこはビルの名前こそ郵便局なのだが、中味はショッピングセンターに鞍替えしていた。

 考えてみれば、どこの国でも中央郵便局と中央駅とはセットで立地しているものだ。そこでタリン駅の近くにある郵便局マークを目指していってみる。しかし、ここも見つからない。ふと思いついて、駅前のR-KIOSKで尋ねてみる。ここには切手があった。店員のおばさんは親切で、国際郵便の料金を調べて切手を売ってくれた。

 

 

 タリン駅を覗いてみる。国の規模にふさわしい小さな中央駅で、アイルランドの田舎町にある終着駅に似ている。シンボルカラーのオレンジ色が待合室の椅子にも車体にもあしらわれている。

 

 

 

 

 ここまで来たついでに、駅を通り抜けて、市場を散策する。この辺り、元は鉄道施設だったところで、「Balti jaama Turg」「Depoo Turg」などと名付けられている。「jaama」とは駅の意味だそうだし、「Depoo」は車庫のことだろう。

 ヤーマ・トゥルグに入ると、新しい市場の割に雑然とした感じがする。一番奥には魚部門があって、仕切りのガラスに描かれたイラストが素朴だ。

 市場内の屋台で昼食に「Tšeburek」を食べる。これは、コーニッシュ・パスティのようなものですこぶるうまい。なんでも元々はクリミア・タタール人の料理だそうだ。

 裏口をでると古本屋が店を出している。アガサ・クリスティーの小説(ロシア語訳)を1冊買い求める。たったの1ユーロなのでもっと買いたかったが、重くなるし、きりがないので自重した。

 

 

 

 

 裏口から仮舗装のような通路をたどると、「Depoo」の区域に出る。元は鉄道機関区だった感じがする建物のひとつに入ると、小物作家の店や喫茶店が並んでいる。これは札幌にあった第2三谷ビル、大阪中崎町のさくらビルと同趣向の店舗群だ。

 

 

 市場と駅の間にある停留所からトラムに乗る。前述したとおり、インターネットで購入した1回分の乗車券を持っている。車内にキャンセラーはいくつもあるが、バーコード対応の機械は一番前にしかない。線路は旧市街の外周に沿って走っているのに、キャンセルに手間取っているうちに通り過ぎてしまった。

 今日はこの後、バスでラトビアのリガに向かう。しかし、バスタ-ミナルひとつ手前の停留所で降りる。住宅団地の中に「ケスク・トゥルグ」という市場があるので寄ってみたい。電停から市場へは並木道が伸びている。どういうわけか、つきあたりに入口はなく、少しずれたところに門が設けられている。

 

 

 足を踏み入れてみるとこの市場、屋内、屋外ともにかなり寂れている。もともと周囲が繁華街なわけでもなく、なぜこんなところに立地しているのかわからない。ろくに食べる場所もないので、トラムの通りに戻って、バスターミナルを目指して歩く。

 幹線道路で吹き抜ける風が冷たい。しばらく歩くと半地下になった喫茶店があったので入る。ソファに座ると、高窓から走り抜けるトラムの足元が見える。キッシュとコーヒーを注文する。メニューはエストニア語のものしかない。ただし、この店の姐さんはロシア語でお客と話している。表示や印刷物の類はどこでもエストニア語だけだったが、街で聞こえる言葉は圧倒的にロシア語が多い。

 

 

 ひと心地ついて、バスターミナルへ行く。ここも小さなターミナルではあるが、乗客は鉄道駅よりもはるかに多く、待合室のオレンジ色のベンチがあらかた埋まっている。R-KIOSKがあり軽い食事もできるし、旅行中に必要なものはたいてい調達できるから便利だ。

 

 リガ行きのバスの発車は16時ちょうど。一応、国際線だから乗車時にパスポートチェックをする。運転席に座っているのは元気な女性で、ときおり「ビザは?」と尋ねている。この人が運転していくのかと思ったら、運転手は普通のおっさんだった。

 バスのシートには個別にディスプレィがあって、インターネットは無料でできるし、メールも送れそうだ。しかし、これをやっていると酔うので切り上げて、セルフサービスのコーヒーを飲みながら暗くなった窓外を眺める。

 18時50分、バスが速度を落とす。道と直角に伸びる土手や高床式の監視所が見える。国境なのだろう。バスは再び速度を上げたが、国境を境にチェーン展開のスーパーマーケットやコンビニエンスストアは一斉に別なブランドに衣替えした。ただ、サークルKのガソリンスタンドだけは替わらずにある。 

 

<4 リガ(1) へ続く>

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