地図から始まる旅 ウクライナ 2018年

2 キエフ

 

 

 

 

 

 

 

 風格ある街並みを見ながらソフィア大聖堂に行く。このあたりはキエフの旧市街とも言えるところで見所が多い。鐘楼に上がってみる。大ぶりな造りでガランとした感じがする。そう感じるのは他に観光客が全くいないせいもある。いずれにしろ、眺望を独り占めできるのはいい気分だ。正面に見えるミハイル大聖堂は再建されたものだから、この建物がない間は寂しい眺めだったろう。

 

 

 

 丘の先端に建つ繊細な置物のようなアンドレイ教会を見ながら、アンドレイ坂を往復する。この坂はキエフ観光の中心ともいえるところで、小物のストールなどが出ている由だが、冬の今は何もない。工事中の建物も多くあまり魅力的とは思われない。

 坂上に戻り、国立歴史博物館の方へ行くと、地面に埋もれるようにしてヂシャーチナ修道院の小さな建物がある。入ってみると薄暗い中で祈りを捧げている人がいる。

 

 

 歴史博物館の屋外には石人が展示してある。キプチャクのものだろうか。何の説明もないのでわからない。

 

 

 

 丘のへりに沿ってペイサージナ・アレーという遊歩道が作られていて、現代アートのオブジェやベンチが並んでいる。個人的にはこうした作為的な場所はあまり好きではないのだが、この遊歩道は気に入った。きっと、周囲の古びた建物との対比や、谷間の眺望、道の曲がりくねり具合など様々な要因が絡み合っているのだろう。

 

 

 遊歩道の途中から階段を降りて、谷間の家並みに入ってみる。このゴンチャルナ通りの方がアンドレイ坂よりも静かで趣がある。

 

 

 

 

 

 

 

 もう一度アンドレイ坂を登ってミハイル修道院に入る。日の短い季節だから堂内はもう真っ暗で、そんな中でろうそくを手にし、礼拝している。もっとも、光彩の色の薄い欧米人にとってはさして暗くないのかもしれない。しばらく見ているとバチッと音がして、一斉に灯りがついた。

 

 

 この修道院の裏手にケーブルカーがあり、丘の上下を結んでいる。もう2回も登ったアドレイ坂と同じ標高差だからさしたる高さではない。運賃は地下鉄と同じ1回8フリブニャするのだが、上り下りとも地元民が結構な数、利用している。ジュトンは何の表示もない真っ黒な、直径1.5センチメートルほどのものであった。

 

 丘の下は歴史的なキエフの下町、ポディール地区である。ケーブルカー駅から少し歩くと歩行者天国になった広い通りに出た。道の中央に仮設のモニュメントがしつらえられて、ナトリウムランプに照らされている。ビニールシートで覆われているからまだ準備中なのだろう。人通りは皆無といってよい。

 

 

 今日3度目のアンドレイ坂を上ってゆく。建物を取り壊した一角があって、むき出しになった壁面一杯にシュールな絵が描かれている。建物は6階建てだからかなり大きなものだ。

 

 

 

 

 坂の途中に「ある道の博物館」というものがある。キエフに関するあらゆるものが集められている。

 

 

 

 トラムのターミナルになっているコントラクトヴァ・プローシャまで来ると、ちょっとした繁華街になっている。イルミネーションがきれいなロシェンというチョコレート屋がある。ポロシェンコ大統領がオーナーだそうで、駄洒落みたいな命名だ。

 チェーンレストランのプザタ・ハータで夕食にする。キエフカツや肉団子にベジタブルケーキ、クワスも飲んで122フリブニャ(488円)とようやくウクライナらしい物価に接することができた。

 

 

 トラム18系統に乗って中央駅へ向かう。運転席を仕切る壁に可動式の小ポケットがあって、そこにお金を入れてパタンと閉じると、運転手が切符をを入れて開いてくれる。切符を買っただけで安心してはいけない。刻印をして使用済みにするのがルールである。キャンセラーは昔ながらの穴あけパンチと、カード用のものが備えられている。

 街角を半周した電車は長い坂を上り、幾つもの大通りを横切ってゆく。線路が敷かれている通りは、古くからの通りなのかもしれない。中央駅に近いスタラヴァグザリナ終点までは30分ほどもかかったのだが、飽きることはなかった。

 スタラヴァグザリナとは旧駅という意味で、大昔はこの終点ループのところに駅があったらしい。他の人たちについて階段を上がり、シャッターの降りた商店街を抜け、近郊線のホームを見下ろし、ライトアップされた地下鉄駅の脇を抜けると中央駅の特徴ある屋根の前に出た。

 

 

 モザイクで飾られたホールから待合室に入る。どういうわけか石炭の匂いがする。四六時中、何やら放送している。同じことをウクライナ語とロシア語で流すから余計に長くなるのだ。

 

 

 

 ボリスピル・エクスプレスは14番線という掲示がある。ボリスピルとは空港の名で、つまり連絡列車が運行を開始していたのだ。しかし、空港のウエブサイトでも無視しているし、空港自体にも何の表示もなかったからわかりようがない。

 

 

 リボフ行き091KA列車は22時42分発である。発車1時間前になると、1番線と表示が出た。エスカレーターの脇からホームに出る。ちょうど列車が入ってきたところだ。15号車から始まる長い編成である。停車しても車内に電気はつかず、ホームに立っている他の乗客も乗り込もうとはしない。細かい雪が降っていて寒いので、いったん待合室に引き上げる。20分ほどしてからもう一度ホームに出ると、デッキの下に車掌が立ち、乗車手続きが始まっている。しかし、車内は真っ暗なままである。

 予約した寝台車は4人コンパートメントであった。下段のベッドは跳ね上げてあって、中が荷物置場になっている。ドア脇には2段だけの小さな梯子しかないが、上段には転落防止柵がちゃんとある。利用客は多く、満員に近いようである。発車の数分前になって蛍光灯が点灯し、定時に発車した。滑るような乗り心地である。しばらくトラムと並走する。タワーマンションが何本か見える。タワーマンションの夜景は生理的に嫌いなのでさっさか横になる。たちまち眠りについた。

<3 リボフ へ続く>

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