北朝鮮の巻 1996年

1 郷愁の北京

 

 北朝鮮へ行くことにした。添乗員付きのツアーである。ツアーでなくても行くことはできるらしいのだが、結局行けるところはツアーと同じらしい。料金は7泊8日で21万円。夏休みの最中とはいえ、距離を考えたらやはり割高である。

 

 成田空港で集合。ゼミの教授に引率された大学生たちや農業を営む夫妻などもいて、意外と多彩な顔触れである。ただし、若い女性はいない。いや、一人だけ飛び切り若い、母娘で参加のMちゃんがいるのだが、まだ中学生とあっては若すぎる。

 

 まず、北京まで飛ぶ。一泊して翌日、北朝鮮大使館でビザを取得してから再び空港に向かうのである。ビザ取得の手続きは添乗員と現地旅行社任せだから気楽なものだ。しかし、当日の朝にビザをもらって午後に搭乗で大丈夫なのだろうか。だいたい、このツアー、本来は1か月前に行くはずだったのが、出発直前に北朝鮮側の事情で延期になっているのだ。

 

 

 

 

 北京での宿泊は、往路が北京国際飯店、復路が民族飯店である。前者は建国門内、後者は復興門内にあって、要するに都心の一等地に立地している。窓からは建設中のビルがあちこちに見えるが、よく見るとそれらの合間に小さな食堂や昔ながらの胡同が見えている。

 

 

 

 特に北京国際飯店の裏手は都心にあって再開発の手が及んでいない一帯があった。黒瓦の門には信報箱と「五包好家」などと書かれた札がある。街角の油条は1個4角。木のローラーで伸ばして端を切り捨て、一定の大きさに切る。運んでくるウエイトレスの服も真っ黒に汚れている。

 これらの古い街並みはその後の再開発で消えてしまったはずだ。高層ビルや現代建築ばかりの北京になってしまっては魅力があるのだろうか。

 

 地下鉄で北京駅を見に行く。地下鉄の料金は一律2元。大らかな改札口で、階段降り口の半分にボックスがあって、4人のおばちゃん係員が切符を受け取ってはバケツに落としている。ホームに降りると本と新聞の売店がそれぞれある。お堅い本ではなく、星占いや流行歌のソングブックである。開くと楽譜が1から5の数字で示されている。獅子王(ライオンキング)などというのも売っている。

 若い男が上半身裸で乗っている。香港でも同様だったが、今はどうだろうか。

 

 

 

 

 

 北京滞在中に連れていかれたのは故宮と天安門広場くらいであった。わざわざ見るまでもないという気がしていたけれども、来てみれば新たな発見がある。ツアーもまた良しという気がしてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 北朝鮮大使館は、日壇の裏手にあって、我々も一緒にバスに乗って行く。手続きはお任せだから、その間お客は大使館の周辺をぶらぶらすることになる。並木道の下に露店が延びている。芳草地集貿市場というらしい。面するアパートも古びて感じがいい。

 桃を売っている屋台がいくつもある。「正宗久保」「香山久保」などと札がついている。写真を撮っていたら、そばの水道で食器を磨いていた奥さんが「大学生か?」と水でコンクリートに書いた。

 

 

 

 

 

  大使館ではビザの担当者が来ていなかったとかで、2時間近くを芳草地市場で過ごした。

 いよいよ謎の北朝鮮へ出発である。

 

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