台湾四分の一周 一人二脚 2018年

1 台北

 

 しばらく温泉に行っていない。温泉に行きたしと思えども、温泉はたいがいお高い。だいたい、温泉はひとりで行くものではない。そういえば、群ようこ氏が台湾の温泉のことを書いていたなあ。韓国の温泉には行ったことがあるけど、台湾の温泉には行ったことがない。

 というより、台湾に旅行したのはもう27年も前のことである。もう一度くらい行ってもいい。

 調べ始めてみると、旅行目的地としての台湾の位置づけが四半世紀の間に随分変わっているのだ。それどころか、以前は存在すら知られていなかった九份などというところが人気らしい。しかも、今やLCCの時代で、ハイシーズンでも2万円も出せば往復できるのだ。そこで、今年の夏休みには台湾に行くことにした。

 

 深夜の2時過ぎに起きて、羽田空港までバスに乗る。少し遠くの駅まで歩けばバスがあって、早朝の便にも十分間に合うのだ。

  羽田空港の国際線ターミナルはコンパクトにまとまっていて使い勝手がいいなと来る度に思う。朝ご飯にうどんを食べる。たこ焼き屋も営業している。朝っぱらからたこ焼きを食べる客がいるのだろうか?

 

 A320の座席におさまり、うとうとしているうちに、台北の桃園空港に到着。時刻は8時25分。普段なら始業前の時刻だから、一日遊ぶぞという気分にさせてくれる。

 

 台北市内に行くには、去年出来たばかりの連絡鉄道を利用する。列車に乗るためには、まず悠遊卡というICカードを購入するのが良い。最近は、たった1回の乗車にもこの手のカードを買わせる都市が増えていて、通りすがりの旅行者にはかえって煩わしいことも多い。しかしこのカードは台北の市内交通のみならず、鉄道や地方のバスでも利用できるのだから買っておいても損はない。愛想のいい窓口嬢の勧めに従って400元チャージ付きを買う。 

 電車が地上に出ると、意外にも緑に覆われた丘陵地帯を走る。成田空港へのスカイアクセス線とそっくりな地形である。違うのは、高いコンクリートの高架を走るので見通しが効くことである。

 ほどなく、ニュータウンのような所を通るが、マンション群はどれも日本より二回りほど規模が大きい。

 

 地下の台北駅に着く。地下とはいえ都心とは思えないほど広々としたターミナルである。ゆとりがあり過ぎて、不気味なくらい人けがない。

 地上に出るとさすがに暑い。だが、東京の暑さに慣れた身にはどうということはない。

 

 

 台北駅の北側に隣接する一角に入ってみる。地図には飾品街とあるので期待したのだが、時代に取り残されたような問屋街で、店も人通りも少ない。いずれこの辺りも再開発されてしまいそうな気がする。

 

 

 大通りに出て東北方にある永樂市場へ行く。野菜や果物の店と布地屋が建物の中に混在していて、大阪駅前ビルの地下街と雰囲気が似ている。

 

 

 表に出るとそこは迪化街という通りで、今や台北でも人気の通りらしい。レンガ造りや洋館風の建物が適度に整備されていて好ましい。

 その一角にある爐鍋珈琲という店に入る。この店では台湾産のコーヒーを出してくれるという。台湾でもコーヒーを栽培しているとは知らなんだが、洒落た店である。

 

 

 店内には3組の客がいて、全員、日本人である。別になに人でもかまわないのだが、会話がすべてわかってしまうのが鬱陶しい。しばらく待たされた後、ブラウニーとともに運ばれてきたコーヒーは、これまでに味わったことがないほど香り高くたいへんに旨いものであった。

 

 

 

 迪化街を北上する。廟があったり道具の店、漢方薬の店が並んだりしいる。市場の一角で釈迦頭という果物を買って公園のベンチでかぶりつく。種のまわりをしゃぶってたべると、クリーミーで少し酸味がある。輸送手段が発達した現代でも、南国の果物は現地でなければ食べられないものも多い。

 

 

 お昼時でもあるので、食事のできるところを探す。大通りの一本裏手に次々と人が吸い込まれていく店がある。2階は玄天宮という廟で1階が食堂になった店である。

 胡麻風味のトンカツ、ウスターソースをかけた半熟の目玉焼き、昆布の炒め物などが一皿にのった定食を食す。これも期待に違わずおいしい。

 

 

 

 その後も街を歩き回り、緑の瓦をのせた宮殿のような斎場を見たり、街角のスタンドでプラムティーを飲んだりしながら、松山機場までやって来た。これほど大都市の中心地に近い空港も珍しいと思う。ターミナルビルを背にして伸びる堂々たる通りも駅前通りのような感じがする。

 

 

 

 これから乗るのは立榮航空(ユニ・エア)の花蓮行きである。花蓮までは120kmほどしか離れていないから飛行機に乗るまでもないのだが、機材が乗ったことのないATR72なのだ。

 カウンターに行くと、ここかしこにサンリオのキャラクター「バッドばつ丸」がいる。親会社の長榮航空(エヴァ・エア)はハローキティを描いた機体を飛ばしているのだから、いっそのこと機体に描いてほしいと思う。「バッドばつ丸」は漢字では「酷企鳥」と書く。タイにノック・エアというLCCがあって漢字表記は「酷航」、さらにノック・スクートというのもあってこちらは「酷鳥」と表記する。「酷」の文字に台湾では別な意味があるのかと思って調べてみたがよくわからない。

 

 搭乗待合室に入る。小さな部屋である。台湾にも新幹線ができてお客を取られてしまったのか、閑散としている。自動販売機でペットボトルの青茶を買い、売店で日式大福を買って食べる。大福は芋泥(Taro)とあって、かじると甘い里芋が丸ごと入っている。日本にこんな大福はないなと思う。

 さて、ユニ・エア8977便は少しく遅れたものの、軽々と飛び立った。もう日は暮れていて、一時期世界一の高層ビルだった「台北101」が後ろに飛び去る。花蓮までの飛行時間は50分である。距離のわりに時間がかかるのは、急峻な山脈を避けて海上を迂回して飛行するからだろう。宜蘭、蘇澳らしき街の灯が右手遠くに見えた。

 機内は買ったばかりの冷蔵庫のようにピカピカしている。プロペラ機にしては音も静かだ。なぜか「Les îles」とフランス語で名付けられた機内誌もあって、全体的にクールな印象である。

 やがて機は着陸態勢に入り、地上が近づいた。いつのまにか180度旋回していて南側から空港に進入していく。右窓に花蓮の街が煌めいている。斜めに走っているのが中華路、ひときわ明るく見えるあたりが夜市の会場だろう。

 初めて足を踏み入れる東部台湾に足がむずむずしてきた。 

 

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