夏が近づくと利根川の河川敷には無数の蛍が飛び交っていた。
それから、いつのまにか蛍などしばらく忘れて大人になった。
そして10数年前の夏の夕刻、マンハッタンのハドソン川に沿ったリバーサイドパークで沈む夕日を見がてら散歩していたとき、川べりの茂みでいく筋もの黄緑の光の帯を見かけた。
ハドソン川から利根川へ一気にタイムスリップした感覚だった。
その頃流行った映画「You've Got Mail」のラストシーンでメグライアン扮するキャスリーンがメール交換していた相手とようやく会って、
毎年7月23日、熊本の本妙寺で「頓写会」という祭りがある。
本妙寺は熊本市街を見下ろせる小高い丘の上にあり、夜景がキレイなことで有名だ。
某建材メーカーの熊本支店にいた若かりし頃、ある取引先に「いいな」と想う女子社員がいた。
彼女は典型的なツンデレだったが、明るくサバサバした性格で大きな取引先にも関わらずお互いタメ口で話していた。
ある年の頓写の日の昼ごろ、「仕事の話じゃないんだけど...」と彼女から電話がかかってきた。
なんと、「一緒に頓写に行こう」というお誘いだった。
「まさか!」と信じられない気持ちで思わず舞い上がってしまった。
会社を16時半にばっくれて、なぜかライバルのM電工の女子達も一緒ということでM電工のショールームで待合わせした。
日が暮れてM電工のショールームで彼女達と合流し、浴衣女子達と一緒に本妙寺の参道を歩き始めた。
本妙寺は山の尾根に沿って階段や坂道をひたすら登っていったところに本殿があり、そこから眺める熊本市街の夜景はとてもキレイだ。
長身でスリムで色白な彼女は赤い浴衣を着ていて、灯篭の明かりに照らされてとっても艶やかだった。
参道の坂道に沿って並ぶ出店を眺めつつ彼女と並んで歩きながら話していると、
「今日○○さんを誘ったのはね、△△さんを紹介するためだったの。」
と後ろの方を歩いている青い浴衣を着たM電工の子を指した。
「・・・」
ちょっとプチ失恋した気分だった・・・
やがて、階段の途中の自販機で彼女は当時売れていたウーロン茶「煌(ファン)」を買って飲み始めた。
上を向いて飲んでるポニーテールの彼女の、ちょっと汗ばんだ首筋がとてもきれいで見とれていると、「はい」と表情を変えずに缶を僕に突き出した。
ドキッとしたが、悟られないようにクールに「ああ、ありがと。」と言って受け取って何口か飲んでから彼女に返すと彼女はすぐまたそれを口にした。
なぜか妙にドキドキした反面、複雑な心境だった。
彼女が紹介してくれた△△さんとはその後1回ドライブしたが自然消滅した。
それよりも、頓写での彼女の姿が目に焼き付いて熊本でのいい思い出としていつもその頃になると思い出す。