2024/7/4 遠い太鼓④ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、作家・村上春樹の紀行エッセイ『遠い太鼓』の中から、「スペッツェス島に到着する」を、番組用に編集してお届けしています。


今夜は、その第4夜。


エーゲ海に浮かぶ、ギリシャの島スペッツェス。


日本を遠く離れて、村上春樹はこの島にやってきた。


海水浴シーズンも終わりかけた砂浜では、観光客が静かに、日光浴をしている。


作家は妻と二人で馬車に揺られ、ようやく目的の場所、クヌピツァのダムディロプロスの家に着いた。


そして、小さなレストラン(タベルナ)で、白ワインを注文したのだが・・・。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「クヌピツァの、ダムディロプロスの家?


知らんなあ」


すると、その隣にいた元気そうなおばさんが、話に首を突っ込んでくる。


「何よ?


どこの家だって?


クヌピツァのダムディロプロスの家だって?」


でも、彼女もその家を知らない。


すると、その近くにいた別のゾルバが、という具合に、話の輪がどんどん膨らんでいく。


そしてみんなで、


クヌピツァのダムディロプロスだって?」


「聞いた事無いなあ」


「ひょっとして、あの家の事じゃねえかな?」


「あいつに聞けば、分かるんじゃないかな?」


などと、ワイワイとやっている。


この程度の事で、みんな結構盛り上がってしまうのだ。


のどかと言うか、暇な所に来ちゃったんだなぁと、実感する。


しかし、かくの如き盛り上がりにも関わらず、結局クヌピツァのダムディロプロスの家の場所は、分からなかった。


ラコステ男が、僕に言う。


クヌピツァの、ダムディロプロスの家がどこにあるかは分からんけど、とにかくクヌピツァまで行って、聞いてみるといいと思うよ。


そこまで行けば、誰か知ってると思うから」


「そうする」


と、僕は言う。


初めから、そうしようと、思っていたのだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


彼は、馬車で行く事を勧める。


そして1台、馬車を見つけてきてくれる。


親切な男である。


「200ドラクマ以上払っちゃダメだよ。


それが、馬車の規定料金だからさ」


と、彼は教えてくれる。


僕は礼を言って、馬車に乗る。


でも、クヌピツァに着いた時、僕は400ドラクマ払わされる事になった。


荷物がすごく重かったから、特別料金が欲しい、と御者が要求したのだ。


ラコステ男に言われた通り、


「冗談じゃないよ!」


と、ケツをまくっても良かったのだけれど、まあ確かに荷物も重かったし、演技かもしれないけど、馬も坂道でハアハア息を吐いていたし、御者に家を探してもらった事でもあるし、まあいいや、と400ドラクマ払ってあげる。


何と言っても、200円くらいの違いなんだから。


我々が最初に港に着いた時に見かけた、一面の垂れ幕の正体が判明したのは、その日の夕方の事であった。


その日は日曜日で、食料品店はどこも開いていなかったので、僕らは夕食を食べるために、港の近くのタベルナに入って、メニューを広げ、本日の魚料理と豆の煮込みを選び、辛口の白ワインを注文した。



[タベルナ]


【画像出典】