2024/5/17 光と虹と神話⑤ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、自然写真家・高砂淳二によるフォトエッセイ『光と虹と神話』より、一部編集してお送りしています。


今夜は、その最終夜。


映画『アバター』の舞台のモデルにもなった、中国の武陵源に、あなたをお連れします。


番組WEBサイトの、高砂淳二の写真と共に、お楽しみください。


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映画『アバター』の舞台となった事で知られる、中国の張家界市、武陵源。


200メートル以上の高さの石柱が、3000本もそそり立つ景観は、まさに絶景中の絶景だ。


[武陵源]


この広大な森に覆われた不思議な大地は、太古の昔はサンゴの海だったという。


何億年も前に、地殻変動が起きて海底が隆起し、その過程で無数に縦の亀裂が入り、この独特な地形が生まれる土台が、出来上がったとの事。


その後、軟らかい部分が風雨によって侵食されて崩れ落ち、現在のような無数の石柱が残った。


武陵源のほとんどは原始の森で覆われ、およそ3000種の多様で希少な植物が、生息している。


氷河期にも凍らなかったこの一帯は、古代植物が生き延びる、避難所にもなった訳だ。


春秋戦国時代の戦乱から逃れて移り住んだ少数民、トゥチャ族がひっそりと暮らしてきたそうだが、1970年代半ばに鉄道が敷かれるまでは、地図にも載らない未開の土地、と捉えられていたという。


世界遺産にも指定されている武陵源や、天門山などの景勝地は、実は今、ハイテク技術を駆使した一大観光地となっている。


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中国の張家界市・武陵源は、実は今、ハイテク技術を駆使した、一大観光地となっている。


まず、何と言っても驚きなのは、武陵源の岩壁にへばりつくようにそびえ、そしてここの見せ場である石柱と肩を並べる、高さ326メートルのガラス張りのエレベーターが、ある事だ。


[エレベーター]


屋外エレベーターとして、世界一を誇る高さで、ギネスブックにも載っているとの事。


それから張家界大峡谷に架かる、谷底まで300メートル、長さ430メートルの、床がガラス張りの巨大吊り橋や、張家界の街中から天門山の上まで、一気に飛ぶように移動できる、7.5キロほどの長さを誇るロープウェイ、いくつも連なる長い長いエスカレーター、断崖絶壁に張り出したガラス張りの山道など、張家界は驚くほど景勝地を便利にした、テーマパークのようになっている。


[吊り橋]


中国の張家界には、僕はエレベーターなどの存在を知らないまま、ただただ武陵源の秘境の姿を、頭に描いて訪れた。


しかし、現地に行ってみて、その征服され切った武陵源を見て、ちょっと残念な感じがしてしまった。


周りの環境やそこまでの道程、そしてリスペクトを持って相対する事で初めて、自然の尊厳を感じる事ができると、僕は思っている。


ここまで作り込む、中国の国力と邁進力には頭が下がるが、コテコテに飾り立てられ、人工関節を埋め込まれた武陵源が、哀れに思えたのだ。


大地は、ただの土の塊ではないし、海は、ただの大きな水たまりではないのだ。


大事な人と接するように、向き合うべき相手だと、僕は思うのだが。


【画像出典】