JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、自然写真家・高砂淳二によるフォトエッセイ『光と虹と神話』より、一部編集してお送りしています。
今夜は、その第3夜。
世界のダイバーたちの憧れ、パラオへ、あなたをお連れします。
番組WEBサイトの、高砂淳二の写真と共に、お楽しみください。
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ミクロネシアの海に浮かぶ、パラオ。
第一次世界大戦の後、日本の統治領となり、一時は住民の半分以上が日本人となった、日本とゆかりの深い国だ。
学校や病院、道路などを整備したり、教育にも力を入れ、日本人はパラオ人から好意を持って受け入れられた。
今でも、日本語を話したり、日本名を持つパラオ人も少なくない。
現地の人と話をしていると、会話の中に時々"デンチュー"、"ベントー"などの言葉が出てきたりするから、面白い。
パラオの島々は、パラオ海溝やフィリピン海溝に囲まれ、島々を縁取る浅いリーフの外側は、そのまま1000メートルを超える海底まで、垂直に落ち込んでいる。
そんな底無しの縁には、様々な魚の群れやサメ、イルカ、マンタなどが無尽蔵に集まる事から、パラオは世界のダイバーの、憧れの的となっている。
そんな海で何年か前、訳あって、何日間か夜通しでダイビングをした。
ライトトラップというのを、ご存知だろうか?
光に寄ってくる生き物の習性を利用して、生物を集める方法だ。
それを、海の中でやろうという魂胆だった。
深海にそのまま続く海で、珍しい深海生物や、不思議なプランクトンを見てみようという訳だ。
[ライトトラップ]
新月前後の夜を狙って、深夜、ダイビングを行った。
新月の時には、夜の海も本当に真っ暗である事から、月が大きい時よりも、他の生き物に食べられる確率が低いので、浮遊系の生物たちは、食べ物が多いリーフ近くに集まっているらしい。
海にライトをいくつも沈め、そこに集まってくる、浮遊生物を待った。
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新月の前後を狙って、深夜、パラオでダイビングをした。
夜の海で浮遊物と一緒に漂いながら、それらに目を凝らしてみると、海に浮かぶ塵一つ一つは、重力を無視したような不思議な形をしていて、まるで地球外生物でも見ているかのような、錯覚に陥るほどだった。
しかも海の中は、無重力状態に近く真っ暗で、そこに光に照らし出された、不思議生物が漂っているのだ。
まさに、海の中にもう一つ宇宙があるかのような、神秘体験とでも言っていいような、経験だった。
体長1〜2センチほどのタルマワシは、浮遊しているホヤのようなものを捕まえて、中をくり抜いて食べ、その中に入り込んで暮らす、不気味な生き物だ。
内側に卵を産みつけ、孵化した子供たちは、その家を食べてしまうのだという。
正面から見てみると、何とも不気味な顔をしているが、映画『エイリアン』のモデルになったとの事。
[タルマワシ]
真っ暗な海に漂いながら、地球上にはまだ知られていない不思議な世界が、沢山あるのだろうなぁと、つくづく思った。
【画像出典】