JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、自然写真家・高砂淳二によるフォトエッセイ『光と虹と神話』より、一部編集してお送りしています。
今夜は、その第2夜。
100種類を超える鳥たちのパラダイス、セーシェル諸島バードアイランドの、どこまでも続く白い砂浜と透明な海へ、あなたをお連れします。
番組WEBサイトの、高砂淳二の写真と共に、お楽しみください。
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インド洋の西部に浮かぶ、セーシェル諸島。
抜けるような青空に、真っ白く小さい点々が動いているのが、見えた。
その動きに目を凝らしていると、僕の目の前を白い鳥が、勢いよく横切った。
遠くの点々の正体は、シロアジサシだったのだ。
[シロアジサシ]
セーシェル諸島の中でも、バードアイランドという島は、アジサシなど多くの鳥の楽園になっている。
シロアジサシには、縄張り意識が極端に強いものもいて、島で散歩しているとしばしば威嚇の意味で、目の前に来てホバリングして、こちらを睨んだり、すぐ近くをかすめ飛んで、脅かしたりしてくる。
しかし、こちらから見れば怖いどころか、その一生懸命な表情が、また何とも言えず愛くるしく、その親鳥が餌を探しに行っている間の、木の枝にちょこんと残された子供の無垢な表情も、またたまらないのだ。
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1周、歩いて1時間ほどのセーシェル諸島にあるバードアイランドには、バードアイランドロッジという、一軒の宿がある。
小さな島に100種ほどの鳥がいて、しかも5月から10月にかけては、なんと200万から300万羽のセグロアジサシが、繁殖のためにやってくるとあって、世界中のバードウォッチャーたちが集まってきて、ここに宿泊する。
[セグロアジサシ]
ロッジでは、産卵のため上陸したウミガメが、海に戻る時に方向を間違えないよう、夜には全室カーテンを閉め、光を外に漏らさないようにするのが決まりだ。
他にも、チェックインする時に、色んな注意事項が告げられる。
全て動物に配慮しての事柄だ。
外灯も、電話もエアコンも冷蔵庫も、何も無い。
自然を満喫するためだけに造られた、宿なのだ。
[ロッジ]
ロッジの周りでは、推定200歳以上、体重350キロの、ギネスにも載っている長寿ゾウガメ、エスメラルダが悠々と闊歩している。
[ゾウガメ]
夕方になると、多くの鳥たちが地上から飛び立って、クウクウ、ギャアギャア鳴きながら旋回する。
夕陽に染まった空を背景に、無数の鳥が黒い塊となって蠢き、空全体から鳥の鳴き声が、地表全体に浸透するように降ってくる。
あくまでも、鳥や野生動物優先の島と宿で、ずっと鳥の声に囲まれて過ごす。
ロッジ近くの枝に留まっている鳥たちも、こちらの事など、あまり気にしない。
ここは鳥の島で、僕らはお邪魔している側なのだ、という事をしっかり把握する事で、鳥たちも安心して観察させてくれるという側面も、ある。
そうすると、島に受け入れられている感覚が、ジワジワと湧いてくるから、面白い。
【画像出典】