2024/3/26 小さいころに置いてきたもの② | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

『JET STREAM』


作家が描く世界への旅。


今週は、俳優・ユニセフ親善大使の、黒柳徹子のエッセイ集『小さいころに置いてきたもの』の中から、「ホロビッツさんのハンカチ」を、番組用に編集してお届けしています。


今夜は、その第2夜。


黒柳徹子のエッセイは、まるでテレビ番組の『徹子の部屋』を見ているように、その風景が生き生きと伝わってくる。


1986年の春に来日した世界的ピアニスト、ウラディミール・ホロビッツ。


デザイナーの森英恵さんが主催した小さなディナーパーティーで、ピアノの巨匠との楽しい会話が、始まった。


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とにかく、ホロビッツさんは矢継ぎ早にものをおっしゃるので、私はおかしかったけど、周りは対応が大変だった。


まず、ボーイさんがお水をホロビッツさんに注ごうとすると、


「君はどこに住んでいるの?


ここに来るのは何に乗ってくるの?


自転車?」


日本人の若いボーイさんが、返事を考えているうちに、もうホロビッツさんの話は、次に移っている。


少し、訛りのある英語だった。


「レーガン大統領が勲章をくれると言っているんだけど、勲章よりコックが欲しいと言ってみようかな。


そう言ったら、いいコックをくれるかしら?」


と、同じテーブルの、ハンサムなマネージャーに聞いている。


マネージャーと言っても、ニューヨーク・タイムズのオーナーの息子さんだとかって話だったけど、ユーモアのある知的な、感じのいい40歳前の男性。


ホロビッツさんの調子に合わせるでなく、大人っぽく、


「さあ、くれないと思いますよ」


と、笑って言った。


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ホロビッツさんは、


「残念」


と言うと、次に私に、


「僕はね、今日ホテルニューオータニで買い物をしましたよ。


それは、何でしょう?」


と言った。


[ホテルニューオータニ]


「さあ、何でしょうね?」


と私が言うと、


「それは、お財布です」


と言って、スーツの左の内ポケットから、長い形のお財布を出して、


「グッチ!」


と言い、テーブルに乗せ、今度は右の内ポケットから、違う色のお財布を出して、


「エルメス!」


と言った。


「2つも買って、どうなさるの?」


と聞くと、ホロビッツさんはすごく嬉しそうに、


「クックッ」


と、いたずらっぽく笑った。


そして、グッチのお札の入る所を開いて、


「ドル!」


と言い、エルメスの方を開いて、


「円!」


と言った。


「ホロビッツさん、ブランド物、お好きなんですか?」


私の質問に、ホロビッツさんは、


「そう、大好き」


と言うと、ご自分の腕時計を指して、


「ローレックス!」


スーツを指して、


「何とか!」


って言った。


何とかっていうのは、多分オーダーをする有名な人の名前だけど、私は知らなかった。


その時、森先生に伺っておけばよかった。


【画像出典】