2024/2/13 この道をどこまでも行くんだ② | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

『JET STREAM』


作家が描く世界への旅。


今週は、作家 椎名誠のエッセイ『この道をどこまでも行くんだ』を、お送りしています。


今夜は、その第2夜。


「獲る」の章より、「メコン川のドンダイ漁」。


大きな大きなメコン川に、竹が何本も立ててあり、その竹と竹の間に、小さな小屋がある。


その小屋の役割とは?


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インドシナ半島のほぼ真ん中を貫くメコン川は、チベットから中国の雲南省辺りを経由して、ラオス、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムと、いくつもの国を経て、南シナ海に注ぐ。


日本列島よりも遥かに長い、この川の河口は、対岸を見る事ができないくらい広大で、船で下ってくると、どこまでがメコン川で、どこからが海なのか、分からない。


源流から河口まで、おびただしい種類の魚介類が生息しているが、汽水域が広いので、その動物層の居住区域も、明確ではない。


地元の人に聞いても、100キロとか1000キロなど、でまかせと思えるような答えが返ってくる。


満ち潮も引き潮もあるから、どっちにしても、正確に測る事はできないのだろう。


河口付近には、長さ300メートルぐらいの幅に、太い竹竿が何十本も突き刺さっており、それにワイヤーを絡ませた、細い竹が全体を繋げている。


そういうものが至る所にあり、共通しているのは、その真ん中辺に2メートル四方ぐらいの、小屋のようなものが作られている事だ。


[小屋]


この大掛かりな装置は、河口を出入りする魚を網にかける、ドンダイ漁と言われるもので、粗末な小屋には大抵男が1人いて、仕掛けを管理している。


この、横に広い竹柵の至る所に、袋網が仕掛けてあって、川と海が規則的に繰り返す、満潮と干潮を利用して、魚を獲っているのだ。


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僕は、結構内陸にある漁師の集落から船に乗って、このドンダイ漁を見に行った。


船が近づいていくと、小屋から男が出てきて、船が網を引き上げるのを手伝っていた。


[網]


網の中には、小魚を中心に鰻や海老、蟹などの雑多な獲物が、その日は一袋に100キロぐらい入っていた。


いくつもあるそれらの獲物の袋を船に運び込むと、一服する間も無く、船は本拠地に帰っていく。


彼らが作業をしている間、僕はその男の住んでいる空中の小屋の中を見せてもらったが、テレビも無線も無く、丸められた布と炭のコンロが、片隅に転がっているだけだった。


網で生け捕った魚を、船が引き上げると、網管理の男のその日の仕事は、終わりである。


その後、海水が川の内側に流れ込んでくると、翌日やってきた回収船には、海からの獲物である小魚類を同じように積み込むのである。


見回したところ、この海上で一人で暮らしている男が、どこかへ行こうとしても、小舟一艘繋がれていなかったから、大時化の時などそれがやってくる前に、ボートで安全な場所に逃げ帰るという事も、できない訳だ。


男に聞いたら、2週間その小屋にこもって毎日同じ仕事をやり、3日ほど集落に帰って、新しい食料などを仕込んだりして、またその小屋での生活に、戻るのだという。


よほど孤独に耐えられる強い男でないと、務められない仕事なんだろうなぁ、と思った。


【画像出典】