2024/2/12 この道をどこまでも行くんだ① | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

『JET STREAM』


作家が描く世界への旅。


今週は、作家 椎名誠のエッセイ『この道をどこまでも行くんだ』をお送りします。


椎名誠は、1944年生まれ、千葉県育ち。


10歳から壁新聞の編集長を務め、11歳の時、スウェン・ヘディンの探検紀行『さまよえる湖』に感銘を受ける。


世界中を旅し、写真を撮り、映画を作り、79歳の今も文章を発表している。


『この道をどこまでも行くんだ』は、南米大陸からアジア、シベリアまで、その土地その土地で出会った人や動物の営みを綴った、一冊である。


今夜は、その第1夜。


「獲る」の章から、「アマゾンのでかナマズ」。


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アマゾン川の河口は広い。


幅が広い、という事である。


対岸から対岸まで、400キロほどもあり、その真ん中にマラジョー島という大きな島がある。


アマゾン川は、その島の両側を囲うように流れているから、その島は日本風に言うと川中島、という事になる。


しかし行ってみると、単なる島ではなく、九州ぐらいの大きさがある。


[マラジョー島]


この中洲には、筑後川ぐらいの川が流れていて、なんだか訳が分からなくなる。


人は数ヶ所に固まって住んでいるだけだ。


アマゾンの河口で一番大きな港湾都市ベレンは、いつ行っても大勢の人々が、まるでめちゃくちゃに交差する、人間たちのカオスのような様相で、ごった返している。


[ベレン]


この辺りは、アマゾン川が海の中を進む川として、長さ500キロほどの凄まじいスケールで、大西洋に流れ続けているという。


したがって、海水、淡水、汽水の領域がごっちゃになって、おびただしい種類の魚介類が毎日水揚げされ、港の街は海や川や生き物が、サンバのリズムと共に毎日賑わい、浮かれているようだ。


その日はフィリッチョという、アマゾンの大ナマズが水揚げされたところで、1匹が100キロ以上ある。


口は、大きいものだと80センチぐらいは、軽くある。


だから、人喰いナマズとも言われているが、味は美味く、この日は11匹も荷揚げされたから、さらにいつもの賑わいが、加速されていた。


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港湾市場には、漁師の他に魚介類の荷受け人や、魚の卸売業の仲を取り持つ、なんでも運び屋のような仕事の人が、沢山いた。


もう30年もこういう仕事をしているという人は、完全にガニ股化しており、長年重いものを頭で支えてきたからなのか、首が肩にめり込んでいる感じだ。


二人がかりで運ばれてきた大ナマズ(フィリッチョ)は、200キロまで測れる大きな台ばかりの上で計量され、値段がつけられる。


その辺のシステムは、日本の魚市場と変わらないが、扱われる魚がみんな途轍もなく巨大なので、その辺が築地辺りとはだいぶ様子が違う。


市場の中を歩いていてびっくりしたのは、畳4枚分ぐらいある、大きなエイを見た時だった。


まだ生きていて、尻尾の横の方に、いかにも悪どい働きをする、固くて鋭い針がついていて、扱いを知らない人が時々刺されるという。


何しろ巨大なエイだから、間が悪いと、人間が死ぬ事もあるそうだ。


フィリッチョは、そこからアマゾン各地の、魚類専門店やレストランに運ばれていく。


どこの国でもそうなのだろうが、こうした所には市場で働く人や観光客などを相手にした、大衆料理店がいくつもあり、そのうちの一つで、水揚げされたばかりと思しきナマズ料理を食べた。


巨大なナマズは白身の部分が多く、それを軽く煮込んだスープも、脂で白濁した層が出来ている。


ナイフやフォークで身を切り取り、唐辛子を主体にした凄まじく辛い調味料と、レモンやライムをどっさりかけて食べる。


これが地元の安酒にぴったりで、アマゾンの喧騒もちょうどいいBGM代わりになる。


【画像出典】


https://www.travelbook.co.jp/topic/12689