『JET STREAM』
作家が描く世界への旅。
今週は、怪魚ハンター・小塚拓矢によるエッセイ『怪魚を釣る』より、一部編集してお送りしています。
今夜はその第3夜。
巨大淡水魚、いわゆる怪魚と呼ばれる魚を追いかけ、世界56ヶ国を旅してきた小塚拓矢。
今夜はそんな小塚が、怪魚ハンターを始めた頃の、話。
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魚を釣るために大切なもの。
それは、技術や道具などではない。
重要なのは、情熱と情報だ。
どこに行けば釣れるのか、それを調べるところから、旅は始まる。
そして、集めた情報を集約し、最終的に釣りに至るまでの過程が、肝心だ。
なかなか出会う事のできない怪魚を前に、途中で挫けそうになる事もある。
そんな時には、
「この魚に出会わなければ、帰れない!」
という熱い思いが、心の支えとなり、忍耐力を生む。
しかし、本音を言うと、純粋な思いだけでもない。
その魚を釣るために費やした、膨大な時間と金を思えば、とても途中で諦める事などできないのだ。
また、誰かに先を越されたくないという思いも、当然ある。
もしも、自分に釣り上げる事ができなければ、その魚を狙っているライバルたちが、喜ぶだろう。
その顔を想像すると、
「なんとしても釣ってやる!」
という勇気が、湧いてくる。
特に、怪魚釣りを始めた頃は、目的とする旅を終えたら、就職活動をするつもりだったので、ここで釣らなければ、もう二度と来る事は無いだろうと思っていた。
出会いたいと言うより、出会わないと帰れない!という一念で、釣ってきた感じだ。
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最初に怪魚釣りの旅に出た2004年は、ちょうどインターネットが、個人による情報発信手段として、利用され始めた頃。
SNSという言葉も、スマートフォンも無い時代だった。
2005年に、初めてパプアニューギニアに行った時は、現地の様子が、肌感覚で伝わってくるような個人サイトは見当たらず、結局見つかったのは商業目的のサイトだけだった。
一応、そのサイトの運営者に連絡をしたものの、希望の場所へ行くにはツアーを手配せねばならず、そのためにかかる経費は、学生である僕の予算を遥かに超えていた。
仕方がないので、パプアニューギニアまで、とりあえず行ってみる事にした。
実は事前に釣り雑誌で、パプアニューギニアのフライ川流域にある村へ行けば、パプアンバスという巨大魚が釣れるという情報を、得ていた。
[パプアンバス]
まずはこの村を目指し、その後さらに奥まで足を伸ばそうと考えた。
しかし、旅に誤算は付き物だ。
第一目的地の村で大魚を釣り上げた後に、熱を出して倒れてしまった。
そのため、予定していた奥地に行く事は、叶わなかった。
大きな病院など無いような村だったので、検査はしていないのだが、あの関節痛はマラリアだったのだろう。
当時居候していた家の主で、村一番のワニ漁師ワビルには、本当に世話になった。
これが縁となり、ワビル一家との付き合いは今も続いている。
泣く泣く断念した奥地への遡上だが、2013年にはワビルのサポートを得て、再挑戦した。
しかし、8年越しの挑戦も虚しく、パプアンバスを釣る事はできなかった。
予想外だったのは、上流にある銅鉱山から、奥地へと物資や資本が流入していた事だ。
奥地は、ワビルの村よりも近代化していたのである。
結果として分かったのは、ワビルの村こそが、この流域で最も文明から距離を置いており、魚も残っている場所だという事だった。
【画像出典】