『JET STREAM』
作家が描く世界への旅。
今週は、怪魚ハンター・小塚拓矢によるエッセイ『怪魚を釣る』より、一部編集してお送りしています。
今夜はその第2夜。
世界56ヶ国を旅し、怪魚と呼ばれる巨大淡水魚を釣ってきた、小塚拓矢。
今夜は、そんな彼なりの怪魚の定義を考えるきっかけとなった、巨大魚ハンターとの出会いについて、紹介する。
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目標を数値化するようになったのは、ヤコブ・ワーグナーというチェコ人に出会ってからだ。
彼は世界的な巨大魚ハンターで、出会った当時、雑誌『ナショナルジオグラフィック』で、巨大魚保護プロジェクトという企画を進めていた。
ヤコブは、100キログラムに成長する巨大淡水魚を、フレッシュウォーター・ジャイアンツと称し、地球上に生息するその全てを釣り上げる事を、ライフワークとしていた。
これはあくまで僕の個人的な印象だが、体長1メートル、もしくは体重10キログラムを怪魚とするなら、ヤコブの言うフレッシュウォーター・ジャイアンツは、"怪物"とでも呼びたくなる。
というのも、100キログラムの魚とは、長さで言えばおよそ2メートルにもなる、超巨大魚だからだ。
生物の体は、ほとんどが水で出来ているので、大きな魚も小さな魚も、長さが2倍であれば、重量は2の3乗倍で8倍。
理論上は、80キログラムとなる。
ただし、生物の多くは巨大化するにつれて、長さ以上に太り出す。
生息環境のキャパシティや、骨よりも肉の方が成長しやすいという生理的な理由など、様々な要因が重なり、概して餌環境が良ければ、ある程度まで大きくなった個体は、長さよりも太さで巨大化する傾向にある。
だから、2メートルでおよそ100キログラムという数値は、彼の言葉で言うフレッシュウォーター・ジャイアンツ、僕の言葉で言う怪物の目安として、妥当だと思う。
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ヤコブと最初に出会ったのは、2009年の夏。
アフリカのコンゴ川で、幻の巨大魚ムベンガを追っていた時の事だ。
彼もまた、3ヶ月という期間をかけて、ムベンガに挑戦中だったが、あいにく船が故障し、修理のために停滞を余儀なくされているという事だった。
ヤコブは、魚を一般的な名称だけでなく、学名でも呼んだ。
そんな釣り師は、初めてだった。
生物の名称には学名の他、日本語では和名、英語では英名がある。
しかし、かつては生物の形態を基準にして名称を決めていた事もあり、例えばナギナタナマズという和名の魚は、実はナマズとは関係なかったりする。
[ナギナタナマズ]
そのため、魚を最も客観的に呼ぼうとすれば、世界共通の名称であり、属名と種小名で構成された、ラテン語の学名で呼ぶ事になる訳だ。
ヤコブが魚を学名で呼ぶのには、彼の親族が生物学者をしている事も、関係しているのかもしれない。
彼は他の釣り人に比べると、魚を客観視しているように感じられた。
フレッシュウォーター・ジャイアンツという呼び名といい、100キログラムという明確な定義付けといい、ヤコブは巨大魚を、自分なりの魚のカテゴリーとして捉えようとしているのかも、しれない。
【画像出典】