2023/2/13 居ごこちのよい旅① | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、文筆家・松浦弥太郎の旅行記『居ごこちのよい旅』より、一部編集してお送りします。


今夜はその第1夜。



文筆家、エッセイスト、セレクトブックストアの代表であり、編集者である松浦弥太郎が綴る、世界の風景、その土地の営み。


暮らすように旅をする松浦の、カリフォルニア・ロサンゼルスでの日々。


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不思議な事に、旅先では朝食の事を考えるのが、一番の幸せだ。


今日の朝食は、ローズ・アベニューにある、ローズ・カフェに行く事にしよう。


古いガス会社のビルをリノベートした建物は、天井が高く開放的で、草花が咲き誇る中庭を持つ母屋は、隠れ家風になっている。


[ローズ・カフェ]


今朝は、ハウスメイド・グラノーラの、ソイミルクかけを選んだ。


席に着いて一口食べて、驚いた。


グラノーラが、最高に美味しい。


ドライフルーツとアーモンドのバランスが絶妙で、蜂蜜とピーナッツバターがたっぷり染み込んだ、自家製オーツの香ばしさが最高だ。


思わず目を瞑って、首を振ってしまう。


これから注文をしようと並んでいる人たちに、


「ここのグラノーラは、世界一だよ」


と、触れて回りたいくらいだ。


大袈裟だとは分かっているけれど、これは最高に美味しいよねと、人と頷き合いながら、この幸せな気持ちを分かち合いたい。


ガラスに写った自分にさえ、僕は声をかけたくなった。


ローズ・カフェで働くスタッフの多くは、ラティーノだ。


セルフサービスのこの店では、自分でカウンターの中のスタッフに注文をするのだが、僕のような英語の拙い外国人の言葉にさえ、にこやかに耳を近づけて聞こうとする優しさが、彼らにはある。


ロサンゼルスと言うと、かたやセレブとか、冷たい白人社会という印象もあるけれど、彼らラティーノの優しい人柄こそが、この町を支えているのだと僕は思う。


彼らのこぼれるような笑顔と、親しみに溢れた言葉に触れるだけで、一日の活力が湧いてくるし、自分も他人に優しくなれそうだ。


うん、ここは良い店だ。


比べる店さえ、思いつかない。


美味しい朝食に出会うと、それだけで一日がときめいてしまう。


大事なのは、人だと思う。


人が生み出す、風景だ。


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今朝も、よく晴れている。


モーテルから、町の北に位置するメキシコ人街、エコーパークに向かう。


すぐ近くのシルバーレイクと同じく、このエリアには、数年前から若いクリエイターたちが移り住み、インディペンデントなショップやスポットが増えている。


[エコーパーク]


トラックに映像機材を積み込み、映画館の無い地方に出向いて、マイクロシネマという映画上映会を催したり、また映画制作のワークショップを行っているNPO団体、エコーパーク・フィルムセンターも、ここをベースにしている。


ビルボードで有名な、サンセット・ブルバードの外れが、街への入り口だ。


ウエストハリウッドから車で30分。


エコーパーク・アベニューへと、ゆるゆると車を進めながら、僕は車が停められそうな場所を探す。


佇まいからして緩そうな、チャンゴというカフェが、ブロックの角にあった。


目を細めたくなるような、柔らかい陽だまりが、僕を包み込む。


通りには、数軒の古着屋や雑貨屋があり、店の人たちは皆歩道に出て、呑気に立ち話をしていた。


裏返しにしたジーンズを、ショーウィンドウにポツンと置いた、ワークという店に入ってみた。


ハンガーにジーンズが2〜3本掛けられ、ロフト風の2階には、大きな工業ミシンが2台置かれている。


「ここは、何屋ですか?」


と店の青年に聞くと、


「昔のテーラーのように、完全オーダーメイドのジーンズ屋だよ」


と、教えてくれた。


彼の名は、ロビーといった。


ブライアンという友人と、2ヶ月前に始めたばかりの店だという。


店は簡素で、清潔だ。


「頼むと、何日で仕上がるの?」


と聞くと、


「そうだね、普通は4日くらいかな」


と答えた。


彼の足元には、セントバーナードが寝転んでいて、僕の事をチラッと見て、大きなあくびをした。


【画像出典】