2023/2/8 走ることについて語るときに僕の語ること③ | 福山機長の夜間飛行記録

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月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、作家・村上春樹のメモワール『走ることについて語るときに僕の語ること』より、第2章を番組用に編集してお届けしています。


今夜はその第3夜。


小説を書くためには、体力を酷使し、時間と手間をかけなくてはならない、と村上春樹は語る。


そうなのだ。


確かに、走る事と小説を書く事は、似ている。


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しかし考えてみれば、そういう太りやすい体質に生まれた事は、かえって幸運だったのかもしれない。


つまり僕の場合、体重を増やさないためには、毎日ハードに運動をし、食事に留意し、節制しなくてはならない。


しんどい人生だ。


しかし、そのような努力を怠りなく続けていると、代謝が高い水準で保たれ、結果的に体は健康になり、頑丈になっていく。


老化も、ある程度は軽減されるだろう。


ところが、何をしなくても太らない体質の人は、運動や食事に留意する必要がない。


また、必要もないのに、そんな面倒な事を進んでやろうという人は、それほど多くないはずだ。


だから、年齢を重ねるに連れて、体力が次第に衰えていく場合が多い。


意識的に手入れをしていないと、自然に筋肉が落ちて、骨が弱くなっていくものなのだ。


何が公平かというのは、長い目で見てみないとよく分からないものである。


これを読んでいる人の中にも、いや、ちょっと油断すると、すぐに体重が増えてしまって、という悩みをお持ちの方が、いらっしゃるかもしれない。


しかしそれは、前述したような理由で、むしろ天から与えられた幸運なのだと、ポジティブな方向に考えるべきではないだろうか?


赤信号が見えやすいだけ、ラッキーなのだと。


まあ、なかなかそんな風には、思えないですけどね。


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考えてみれば、このような観点は小説家という職業にも、当てはめられるかもしれない。


[小説家]


生まれつき才能に恵まれた小説家は、何をしなくても、あるいは何をしても、自由自在に小説を書く事ができる。


泉から水が渾々と湧き出すように、文章が自然に湧き出し、作品が出来上がっていく。


努力をする必要なんてない。


そういう人が、たまにいる。


しかし残念ながら、僕はそういうタイプではない。


自慢する訳ではないが、周りをどれだけ見渡しても、泉なんて見当たらない。


ノミを手にコツコツと岩盤を割り、穴を深く穿っていかないと、創作の水源に辿り着く事ができない。


小説を書くためには、体力を酷使し、時間と手間をかけなくてはならない。


作品を書こうとする度に、いちいち新たに深い穴を開けていかなくてはならない。


しかしそのような生活を長い歳月に渡って続けているうちに、新たな水脈を探り当て、固い岩盤に穴を空けていく事が、技術的にも体力的にも、結構効率よくできるようになっていく。


だから、1つの水源が乏しくなってきたと感じたら、思い切ってすぐに次に移る事ができる。


自然の水源にだけ頼ってきた人は、急にそれをやろうと思っても、そうすんなりとはできないかもしれない。


人生は、基本的に不公平なものである。


それは、間違いの無いところだ。


しかし、たとえ不公平な場所にあっても、そこにある種の公正さを希求する事は、可能であると思う。


それには、時間と手間がかかるかもしれない。


あるいは、時間と手間をかけただけ無駄だったね、という事になるかもしれない。


そのような公正さに、あえて希求するだけの価値があるかどうかを決めるのは、もちろん個人の裁量である。


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